帰り道。

「ねえ。どういうこと?なんで五代君、皐月のこと知ってたの?」

ふくれっ面をする野乃子に私も口を尖らせた。

「そんなのこっちが知りたいよ。」

クラスもクラブも委員会も一緒ではない。

向こうはバリバリの体育会系で、私は手芸部という文科系クラブに入っている。

五代君の転入前の学校は知らないけれど、絶対に同じ小中学校ではなかった。

五代君と自分の接点など、どう思い返しても見つからない。

「もしかして五代君、皐月に興味を持っているのかも。」

「まさか。それはナイ。」

キラキラ女子が多い2学年の中で、私は自分が地味で目立たないタイプだと自覚している。

取り柄は真面目で与えられた仕事をしっかりとこなすこと、そして波風を立てない穏やかな性格、それくらいしか思いつかない。

「ねえ。野乃子。五代君のファンなんてやめたら?」

私の言葉に野乃子がきょとんとした。

「え?なんで?」

「だって・・・見たでしょ?さっきの態度。なんか上から目線だし・・・。せっかくの差し入れなんだからつべこべ言わずに素直に受け取ればいいのに。なにが俺は抹茶は食えないからーよ。偉そうに。」

「どうしたの?皐月が人のこと悪く言うなんて。らしくないね。」

野乃子にそう突っ込まれ、ハッと冷静になった。

本当にらしくない。

なんでこんなに私、熱くなってるんだろう。

隣のクラスのよく知りもしない男子なんて放っておけばいいって、いつもならそうドライに切り捨てるのに。

「だって訳も判らず自分のことを知られてるなんて、気持ち悪いよ。」

私は野乃子にそう言って誤魔化した。

「そうお?私だったら五代君に認識されてたら嬉しいけどな!」

野乃子が能天気にそう言った。

その時、ピンと閃いた。

五代君がいるD組には、私と中学が一緒だった下田浩輔がいる。

明るくて友達の多い下田君は、女子にも分け隔てなく声を掛け、いつもクラスのムードメーカーだった。

大人しいグループにいた私にも、しばしば距離を詰めて話しかけてきたのを思い出す。

当然いまもクラス中の人間と親しくしているのだろう。

もちろん五代君とも。

何かの拍子で下田君が私の話をしたのだろうか。

「下田君てば余計なことを・・・。」

私はお調子者の下田浩輔の顔を思い浮かべ、眉をひそめた。