「さてと。」

俺はいつも皐月のそばにいる「あずみ」に声を掛けた。

「俺の義姉、皐月がいつも世話になってるみたいで。ありがとう・・・というのも変だけどな。」

「こちらこそ、アタシの親友皐月がお世話になってるワ。」

「で?なにが言いたいんだ?」

俺は不敵に笑みを浮かべる目の前の男をじっとみつめてその名を呼んだ。



安住恭二郎(あずみきょうじろう)



「あら。フルネーム知っててくれたんだ。ウレシイ!」

「いい加減、そのわざとらしい話し方やめろ。俺の目は誤魔化せないからな。」

「なんのこと?」

「お前、そのキャラ、フェイクだろ?」

「・・・・・・。」

「皐月のそばにいたいからなんだろ?皐月、男が苦手だもんな。でもお前のオネエキャラなら、皐月も心を開いてそばにいてくれる・・・そう思ったんだろ?」

「そうだけど?」

安住は俺の言葉にあっけなく頷いた。

「でも安心しろよ。お前、皐月と付き合ってんだろ?その仲を引き裂くような真似をするなんて一切考えてないからさ。俺は皐月が幸せならそれでいい。」

男言葉に戻った安住は、そう言ってにやりと笑みを浮かべた。

そして俺の肩を叩くと、その柔らかな笑みを引っ込め、厳しい表情でおれを睨みつけた。

「けどさ。お前、女どもにモテモテだろ?」

「知らねーよ。アイツらが勝手に騒いでるだけだろ。」

「もし皐月以外の女となにかあったり、皐月を泣かせるようなことがあったら、容赦しないから。それだけは覚えといて。」

「余計なお世話だ。俺が好きなのは皐月だけだから。」

「そっ!その言葉が聞きたかっただけ。」

「・・・・・・。」

「皐月は優しいからいつも自分を抑えて周りに合わせてしまう。両親の離婚のときだってそう。自分が一番悲しいくせに、家族のバランスを崩さないようにって心を砕いて・・・。」

「・・・・・・。」

「皐月を頼んだ。」

安住の言葉に俺も真面目に答えた。

「・・・了解。」

俺の言葉を聞いた安住は親指を立てると、背中を向けて屋上の出口へと向かって行った。

そして扉を開けると、振り向きざまに言った。

「でもアタシ、皐月の親友を降りるわけじゃないから。一生皐月の親友で居続けるから。これからはアタシとも恋人のように仲良くしましょ!オトウト君」

そして今度こそ、扉の向こうへ消えていった。

俺は大きく息を吐き、つぶやいた。

「マジかよ・・・」

そしてフッと笑う。

「ま、俺はオマエなんかに負けねーけどな。皐月は一生俺のもんだから。」






fin