おぼつかない足取りでなんとか家にたどり着いた私は、部屋のベッドへそのまま倒れ込んだ。

廉はいままでどんな思いで生きてきたのだろう。

冬実さんの大切な思い出を守るために、自らが犠牲になって奈美子さんにその貴重な時間と身体を差し出し、奪われてきたのだ。

廉だって父親に裏切られ、傷ついたはずなのに。

悔しくて悲しくて目尻に涙がにじむ。

ふいに部屋のドアがコンコンと叩かれた。

「はい。」

私が力なく答えると、廉が顔を覗かせた。

私はあわててベッドから起き上がった。

「ゴメン。寝てたのか?」

「ううん。大丈夫。」

私は小さく首を振った。

そんな私の顔を廉がまじまじとみつめた。

「何かあったのか?」

「何にもないよ。どうして?」

「いや・・・皐月の顔色が悪いからさ。それにこんなに遅く帰ってくるなんて珍しいし。」

時計を見るともう9時を回っていた。

「しかも見たことのない服着てるし。なんからしくねーなって。」

「私だってたまには気分を変えたい時もあるよ。いつも優等生じゃ疲れちゃう。」

「俺は皐月の優等生キャラ、嫌いじゃないけど。」

「なんか馬鹿にしてる?」

私が怒ったふりをすると、廉は屈託なく笑った。

「してないよ。でも皐月はそのままでいい。」

「なにそれ。」

「ま、何かあったら俺に言えよ。出来の悪い義弟だけど、俺に出来ることなら何でもするから。」

その温かい言葉に、私はまた涙ぐむ。

「廉は・・・優しすぎるよ。」

「は?どこが。」

「ううん。こっちの話。」

「皐月、やっぱりお前、変だぞ。」

廉がベッドに腰かけ、私の髪を撫で、ふわりと抱き寄せた。

大きな手の平もその身体も、とても温かい。

廉の全てを奈美子さんに、もう2度と触らせたくない。

ううん。誰にも触らせたくない。

「ねえ、廉。」

「ん?」

「もう自分が嫌だと思うことをしないで。」

「・・・どういう意味?」

「廉は私が守るから。」

そうつぶやき、私の顔を不思議そうに覗き込む廉の目をじっとみつめた。