もう何も聞きたくなかった。

けれどここまで来た以上、最後まで聞かなければならない。

真実を知りたがったのは他の誰でもない私なのだから。

「廉は即答したわ。わかった・・・俺はあなたと付き合いますってね。」

「酷い・・・どうして・・・どうしてそんな真似が出来るんですか!」

私の叫び声に、奈美子さんが不思議そうに笑った。

「ふふふ。あなた何言ってるの?」

「廉はあなたとの付き合いに疲れてる。もういい加減、廉を解放してください。」

私の絞り出すような声を聞きながら、奈美子さんは頬杖をついて珍しい生き物を見る目をした。

「さっきからなんなの?私と廉は合意の上で付き合ってるの。家族だかなんだか知らないけど、最近知り合ったばかりのあなたが口出しする権利なんてないと思うけど。」

「私は廉の義姉です。廉を守る義務があるんです。」

「義弟が誰と付き合おうがあなたには関係ないでしょ?」

「関係あります。」

私は息を大きく吸ってハッキリと宣言した。

「私は廉が好きだから。」

奈美子さんは右眉をぴくりと動かして私をまじまじとみつめた。

「それは家族愛?それとも男として廉が好きなの?」

「・・・わかりません。でも廉が辛い思いをするのは耐えられない。」

「失礼ね。廉もけっこう楽しんでいると思うわよ?」

その言葉の意味に、私は青ざめた。

「でも・・・そうね。そろそろ廉を解放してあげてもいいかもね。」

「お願いします!」

私は必死の思いで頭を下げ続けた。

「やめてよ。まるで私が悪者みたいじゃない。」

奈美子さんが急に猫なで声を出した。

「わかった。あなたに免じて廉を解放してあげる。もう廉には連絡しない。」

「ありがとう・・・ございます。」

「でも・・・もちろんタダではないわよ。」

奈美子さんの意地悪そうな眼差しが私を射抜いた。

「もちろん、その代償はあなたが払ってくれるのよね?」

「え・・・?」

私の笑顔が凍り付き、奈美子さんは妖艶に微笑んだ。

「今度はあなたが私を楽しませてよ。」

「それは・・・どういう意味ですか?」

「私の男友達でね、女子高生と付き合いたいっていう変態がいるの。男ってほんと若い子が好きなのね。」

「・・・・・・。」

「あなたみたいに清楚で可愛い子、きっと気に入るはずよ。あなた、そいつと付き合ってよ。皐月ちゃんの心意気に免じて、そうね・・・一回だけでいいわ。そうすればもう廉には二度と会わないと約束するわ。どう?」

「・・・・・・。」

固まってしまった私に、奈美子さんがバッグから自らの名刺を取り出してそれを差し出した。

「そんなすぐには決められないわよね。もし決意が固まったら連絡頂戴。もちろんその名刺を捨てて私との取引を忘れてしまうのもアリだと思うわ。その場合、廉との付き合いは続けさせてもらうけどね。すべては貴女次第。」

「・・・・・・。」

「じゃ。あ、ここの支払い、よろしくね。」

奈美子さんはそう言って手を小さく振ると、すばやく店を出て行った。

残された私は、ただ小刻みに震える身体を両手で抑えながら、必死にこれから自分がどうすればいいのか、そればかりを考えていた。