「ふーん。それは女だね。間違いない。」

今日はママと月に一度のディナーの日。

黄色いツイードのスーツ姿のママは今日もカッコ良い。

耳に光る金色のピアスも決まってる。

たまには銀座にあるフランス料理屋でフレンチでも食べない?とママに誘われた時から私は廉のことをママに相談しようと決めていた。

ママは出版社で恋愛エッセイを書く小説家の担当になったこともあるらしいし、こういった問題に的確なアドバイスをくれる気がしたのだ。

ママは仔牛のモモ肉ポアレ・キノコのクリームソースを綺麗に切り分けながら、一通り私の話を聞いてそう断じた。

「・・・だよね。」

「で?皐月はどうしたいの?」

私は冷水が入ったコップをみつめながらしどろもどろに言った。

「うん・・・廉の問題だから口出ししない方がいいことは判ってる。でも・・・なんだか心配なの。本当に好き合ってるならいいけど、この前の電話の様子がおかしくて・・・」

「はあっ!」

ママが大きな声でため息をつくと、一気にまくしたてた。

「なんかもどかしいなあ!もう廉君にはっきりと問い質してみるしかないんじゃない?皐月は仮にも家族だし義姉なんだからそれくらい突っ込んでもいいと思う。でもこのまま静観するのもひとつの方法だよ?どちらを選ぶかは皐月次第。」

「うん・・・。」

私の冴えない顔を見て、何故かママが微笑んだ。

「なに?」

「皐月、廉君が好きなのね。」

ママの思いがけない言葉に私はうろたえた。

「好きじゃないよ!ただ家族として心配なだけで。」

「皐月はいつも自分以外の人に対しては割とドライじゃない?私と圭亮の離婚のときもどこか他人事のように眺めていたし。」

ママにそんな風に思われていたのだと初めて知った私は、声を荒げた。

「そんなことないよ!私はすごくショックだったよ!」

「そっか。ごめんごめん。でも今回のあんたはいつもとちょっと違うなって思ってさ。」

「・・・・・・。」

たしかにママの言う通りかもしれない。

今までの私は他人の問題に首を突っ込むなんて面倒な真似を避けてきた。

でも・・・廉の事をもっと知りたいと切実に願う自分がいる。

「いっそ廉君を尾行してみるとか。」

ママがふとそんなことをつぶやいた。

「尾行・・・?」

「そう。ふたりの様子を影から観察するの。」

ママがいたずらっぽく笑った。

「なーんて冗談。そんな探偵みたいな真似、危ないからしちゃ駄目だよ?」

そう言ってグラスの赤ワインを飲むママに私も軽く尋ねた。

「そういうママは?彼氏出来た?」

「仕事が忙しくてそれどころじゃないわよ。」

ママが大きく片手を振った。

「パパが再婚して、ショックじゃない?」

尚も言い募る私に、ママは少し困った顔をした。

「うーん。ショックと言えばショックだけど、安心している自分もいるのよねえ。」

「安心?」

「だって圭亮は淋しがり屋だからこの先もひとりで生きていけないと思うし。皐月だっていつかは圭亮の元を旅立っていくわけだしね。これでやっと肩の重荷が降りた気がする。」

「ふーん。そんなものなのね。」

私のドライな性格はこの母から譲り受けたに違いない。

「冬実さんって人、私と正反対なんでしょ?」

「そうね。ママが赤色なら冬実さんは青色、ママがひまわりなら冬実さんは百合って感じかな?」

「じゃあ私も圭亮と正反対の男性と恋しようっと。」

「うん。そうしなよ。私、ママにも幸せになってもらいたい。」

「じゃあ彼氏が出来たら、まず皐月に紹介するね。」

「うん。約束。」

ママは小指を出してウインクをした。