一人で歩く学校からの帰り道、家に向かう足取りが重くなる。
どんな顔をして廉と話せばいいのかわからない。
気持ちの整理がつかないまま、玄関の扉をあけ茶色のローファーを脱ぎ、靴箱へ揃えていれた。
廉の白いスニーカーが靴箱のいつもの場所に置かれている。
廉が家に帰っていることを確認し、私は大きく息を吸った。
大丈夫・・・いつも通り接することが出来るはず。
階段を上り自室へ入ろうとすると、隣の部屋から廉の苛立った声が廊下にも漏れ聞こえてきた。
どうやら廉は携帯で誰かと通話しているようだった。
「そんな急に言われても、俺にだって都合があるんだけど。」
「泣くなよ。泣かれると俺もどうしていいかわからない。」
「・・・わかったよ。これから行くから待ってて。待ち合わせ場所はどこ?」
そんな言葉が断片的に聞こえてきて、気が付くと私は思わず廉の部屋のドアに耳を当てていた。
通話が終わり、しばらくすると廉がドアから出て来た。
ショルダーバッグを持った廉は私に気付き、少しバツの悪い顔をしてみせた。
「お帰り。皐月。」
「うん。ただいま。」
ぎこちない沈黙が私達の間を支配した。
廉がその沈黙を破って軽く私に尋ねた。
「今日は遅かったんだな。」
「うん。委員会があって。廉は早かったね。部活は?」
「ああ。顧問が出張で自主練だったから早く終わった。」
「ふーん。」
私は意を決すると思い切り勇気を出して、廉に聞いた。
「こんな時間からどこに行くの?」
「・・・どこだっていいだろ?皐月には関係ないところ。」
いつになく冷たい声でそう告げられ、私はさっと青ざめた。
そんな私の表情に気付いた廉は、すぐにいつもの口調に戻った。
「なに?もしかしてさっきの俺の声、聞こえてたとか?」
私がためらいがちにこくりと頷くと、廉は少し微笑んでみせた。
「ちょっと口喧嘩しただけだよ。前の学校の友達から急に呼び出されてさ。なるべく早く帰るよ。母さん達にもそう言っといて。」
「うん。」
そう頷いたけれど、本当は廉の言葉をまったく信じていない自分がいた。
そんなの嘘だ。
そんなことくらい私にだってわかる。
そう言い返したいのに言葉が出てこない。
気が付くと私はすがるような目で廉をみつめていた。
行かないで・・・そんな言葉を発してしまいそうな自分を必死で抑える。
「皐月、なんて顔してんだよ。」
「だって・・・廉が遠くへ行ってしまいそうで。」
「大袈裟だな。すぐに帰ってくるって。」
廉が私の頬をそっと撫でた。
いつになく優しいその仕草に、私の頬が熱くなる。
「じゃあな。」
それだけ言い残し、廉は駆け足で階段を降りていった。
玄関の扉がバタンと閉まる音を、私はただぼんやりと聞いていた。
その日の夕飯は半分も喉を通らなかった。
私は冬実さんに尋ねた。
「廉君って・・・夜遅くに帰ってくることもあるんですか?」
肉じゃがに箸を伸ばしていた冬実さんが少し考えるような仕草をした。
「そうね・・・。たまに遅く帰ってくることがあるかな。多分友達と遊んでいて盛り上がってるんじゃない?でも12時までには帰ってくるから心配しなくても大丈夫よ?」
「別に心配なんか・・・」
「ふふふっ。じゃあそういうことにしといてあげる。過保護なお義姉さん。」
冬実さんはそう言って笑うと、ジャガイモを口の中に入れた。
その日、廉は深夜に帰宅した。
廉・・・こんな遅くまでどこで何をしていたの?
廉の部屋のドアが閉まる音を聞いてからも、私はしばらく寝付けなかった。
どんな顔をして廉と話せばいいのかわからない。
気持ちの整理がつかないまま、玄関の扉をあけ茶色のローファーを脱ぎ、靴箱へ揃えていれた。
廉の白いスニーカーが靴箱のいつもの場所に置かれている。
廉が家に帰っていることを確認し、私は大きく息を吸った。
大丈夫・・・いつも通り接することが出来るはず。
階段を上り自室へ入ろうとすると、隣の部屋から廉の苛立った声が廊下にも漏れ聞こえてきた。
どうやら廉は携帯で誰かと通話しているようだった。
「そんな急に言われても、俺にだって都合があるんだけど。」
「泣くなよ。泣かれると俺もどうしていいかわからない。」
「・・・わかったよ。これから行くから待ってて。待ち合わせ場所はどこ?」
そんな言葉が断片的に聞こえてきて、気が付くと私は思わず廉の部屋のドアに耳を当てていた。
通話が終わり、しばらくすると廉がドアから出て来た。
ショルダーバッグを持った廉は私に気付き、少しバツの悪い顔をしてみせた。
「お帰り。皐月。」
「うん。ただいま。」
ぎこちない沈黙が私達の間を支配した。
廉がその沈黙を破って軽く私に尋ねた。
「今日は遅かったんだな。」
「うん。委員会があって。廉は早かったね。部活は?」
「ああ。顧問が出張で自主練だったから早く終わった。」
「ふーん。」
私は意を決すると思い切り勇気を出して、廉に聞いた。
「こんな時間からどこに行くの?」
「・・・どこだっていいだろ?皐月には関係ないところ。」
いつになく冷たい声でそう告げられ、私はさっと青ざめた。
そんな私の表情に気付いた廉は、すぐにいつもの口調に戻った。
「なに?もしかしてさっきの俺の声、聞こえてたとか?」
私がためらいがちにこくりと頷くと、廉は少し微笑んでみせた。
「ちょっと口喧嘩しただけだよ。前の学校の友達から急に呼び出されてさ。なるべく早く帰るよ。母さん達にもそう言っといて。」
「うん。」
そう頷いたけれど、本当は廉の言葉をまったく信じていない自分がいた。
そんなの嘘だ。
そんなことくらい私にだってわかる。
そう言い返したいのに言葉が出てこない。
気が付くと私はすがるような目で廉をみつめていた。
行かないで・・・そんな言葉を発してしまいそうな自分を必死で抑える。
「皐月、なんて顔してんだよ。」
「だって・・・廉が遠くへ行ってしまいそうで。」
「大袈裟だな。すぐに帰ってくるって。」
廉が私の頬をそっと撫でた。
いつになく優しいその仕草に、私の頬が熱くなる。
「じゃあな。」
それだけ言い残し、廉は駆け足で階段を降りていった。
玄関の扉がバタンと閉まる音を、私はただぼんやりと聞いていた。
その日の夕飯は半分も喉を通らなかった。
私は冬実さんに尋ねた。
「廉君って・・・夜遅くに帰ってくることもあるんですか?」
肉じゃがに箸を伸ばしていた冬実さんが少し考えるような仕草をした。
「そうね・・・。たまに遅く帰ってくることがあるかな。多分友達と遊んでいて盛り上がってるんじゃない?でも12時までには帰ってくるから心配しなくても大丈夫よ?」
「別に心配なんか・・・」
「ふふふっ。じゃあそういうことにしといてあげる。過保護なお義姉さん。」
冬実さんはそう言って笑うと、ジャガイモを口の中に入れた。
その日、廉は深夜に帰宅した。
廉・・・こんな遅くまでどこで何をしていたの?
廉の部屋のドアが閉まる音を聞いてからも、私はしばらく寝付けなかった。