冬実さんと廉が家族になって1か月経ったある日。

4人で囲む夕食時、いつもと違うぴりついた空気に気付いた。

それが気になって献立のカレーもなんだか味がしない。

その原因は、新婚であるふたりのぎこちない会話にあった。

パパも冬実さんも笑っているけれど、その表情は硬い。

私が廉を見ると、廉も私に目配せしていた。

夕食が終わり、私は当たり前のように廉の部屋を訪れていた。

「今夜のパパと冬実さん、不自然だったよね?」

私はいつものように、廉のベッドに腰かけた。

廉はバスケットボールを手で回しながら、何でもないことのように言った。

「そりゃ、たまには夫婦喧嘩もするだろ。」

「でもまだ結婚して1か月しか経ってないのに。」

「いくら仲の良い恋人同士だって、一緒に暮らすと色々と相手の嫌な部分も見えてくるのさ。」

「ふーん。廉って大人。」

「は?」

「なんか達観してるっていうか。」

「・・・・・・。」

廉が黙ってしまったので、私はあわてて話を元へ戻した。

「ふたりが喧嘩したままだったら嫌だな。私達まで暗く沈んじゃうよ。」

「それはそうだな。」

そのとき、私の中である考えが閃いた。

「ねえ、廉。」

「ん?」

「私達でふたりの為にささやかなウェディングパーティをしてあげない?パパと冬実さん、籍も入れないし結婚式も挙げないでしょ?ふたりには夫婦になったっていう記念が必要だと思うの。」

「ウェディングパーティ・・・か。」

「ね。どう思う?」

「ま、いいんじゃね?」

廉はそう頷くと、バスケットボールを上へ放り投げ、再びキャッチした。

「でも具体的にはなにすんの?」

「うーん。何がいいんだろう。冬実さんの好きなものってなにかわかる?」

「・・・・・・。」

廉は少し考え込み、ポツリとつぶやいた。

「星・・・かな。」

「星・・・?」

「ああ。」

「じゃあケーキを焼いて星の形にデコレーションしようかな。」

私がそう言うと、廉がハッと我に返ったように顔を上げた。

「ごめん。今のナシ。」

「え?」

「やっぱ星の形はやめてくんない?」

「どうして?冬実さん、星が好きなんでしょ?じゃあ星型のペンダントでもプレゼントする?」

「だからやめろって!」

「・・・・・・。」

廉の顔が曇り、暗い影を落とした。

訳がわからなかったけれど、私はただ「ごめん。」と謝ることしか出来なかった。



ふたりで知恵を振り絞って考えた結論は「餃子パーティをやる」というものだった。

廉が餃子を作るのなら得意だと言ったからだ。

日曜日、私達はパパと冬実さんに映画のチケットを渡した。

洋画の甘いラブロマンスもので、映画館の一番良い席を取った。

「私と廉で家事はやっておくから、たまには冬実さんとふたりでお出かけしてきて。」

私がそう言うと、パパは少し驚いた顔をしたあと、冬実さんの背中に手を添えた。

「そうだな。じゃあ冬実さん、お言葉に甘えようか。」

「そうね。廉、皐月ちゃんの邪魔しちゃ駄目よ。」

「わかってるって。さっさと行けよ。」

私達は半ば追い出すようにふたりを見送ると、早速近くのスーパーへ買い物に出掛けた。

日曜日のスーパーは買い出しに来る主婦や家族連れで混雑していた。

廉がカートを押し、私が肉や野菜を吟味する。

「えーと。ひき肉はこれくらいでいいかな?」

「なるべく新鮮なのを選べよ?」

「わかってるって。」

キャベツやニラなど野菜も選び、すべての商品をカゴにいれた私達は、レジに並んだ。

突然、私達の後ろに並んだおばあさんに、背中越しに声を掛けられた。

「あらー。可愛いカップルだこと!新婚さん?」

「いえ!違います。私達は義姉弟(きょうだい)です。」

「そうなの?でもあなたたちお似合いね。さっき買い物している姿を見かけたけど、息もぴったり。」

私はバツの悪い思いで、廉の顔をそっと見た。

廉も照れくさそうな顔で、前髪を触っている。

レジでの清算が終わり、エコバッグに買ったものを詰めていると、廉がボソッと言った。

「新婚は親だっつーの。」

「ね。あのおばあさん、何勘違いしてるんだろ。」

私も気まずさを吹き飛ばすように笑った。

「でも悪い気はしねーな。」

「え?」

廉の言葉に私はどきっとした。

「何でもねーよ。早く帰って準備しようぜ。」

廉がさりげなくエコバッグを自分の肩にかけた。