先に口を開いたのは和真だった。


「すごいですね。水族館のエンターテインメント性がここまで高いとは思いませんでした。営業も企画もこのくらいのアグレッシブさが必要だと勉強になります」

「あはは!すごいイルカたちでしたね!」


イルカたちに感心していた和真に、あおいはお腹を抱えるほど笑った。
ふと、お互いに軽く濡れていることを思い出して、カバンからハンカチを取り出すあおい。


「和真さん、良かったら使ってください」

「ありがとうございます」


あおいからハンカチを受け取った和真は、そのままあおいの髪の毛を拭いてあげた。
和真の行動で、顔を赤らめるあおいは、身を任せるようにじっとする。


「びしょびしょにならなくて良かったですね」

「は、はい…っ」


視線だけ和真へそっと上げると、優しい笑みで見つめてくれた。
再び高鳴る鼓動に、限界を感じたのかキュッと目を閉じて顔を背ける。


「ああ、あのっ、和真さんも拭いてください…!」

「このくらいなら大丈夫ですよ。ありがとうございました」

「…むしろ私の方が…」


会釈をした和真は、あおいにハンカチを返した。


「あの…次に行きたいところがあるのですが…いいでしょうか?」

「もちろんです!」


和真からの初めての提案に、即答するあおい。
二人は立ち上がって、和真の希望に向かうため、イルカショーの会場を後にした。



水族館の敷地内の外に出ると、和真の歩く速度が速くなる。
少し進むと、パタパタと動く生き物が見えてきた。


「ペンギンだぁ!」


ペタペタと歩くペンギンたちの可愛さを見て、目が輝くあおい。
しかし、和真の方は無表情のままだが、あおい以上に目を輝かせてペンギンを見つめていた。


(……和真さんって…)


「あおいさん…ここは天国ですね」


ポツリと呟いた後、ペンギンを見るために、近づいていく和真。
スマホを取り出して、距離の近いペンギンを連射したり、動画を撮ったりした。


(絶対ペンギンが好きだ!!!)


様々な角度からペンギンを撮影すると、悦を含むため息をこぼした。
和真の意外な一面を見られたあおいは、嬉しくなり話しかける。


「ペンギン、好きなんですね」

「…は、はい…」


隣から話しかけられた和真は、持っていたスマホをおずおずと直そうとした。


「え!?もう撮らないんですか!?」

「…えっと…」


和真の行動に驚くあおいは、スマホを直そうとする腕を掴んだ。
初めて言葉を詰まらせる和真は、耳まで赤くなっている。


「気持ち悪い…と感じませんか…?男らしくないとか、小鳥遊家らしくない…とか…」


自分の不安を伝えた和真は、あおいの反応を見ようと、チラリと視線を向けた。