「え!?そんな…!だ、大丈夫です!まだ手持ちがあるし…無理です!」
「家族カードなので会計時に出すだけで大丈夫です。安心して使用してください。それに、あおいさんの物はこちらで揃えると言いましたよ」
クレジットカードを返そうとしてくるあおいに、応えることをしない和真は玄関のドアノブに手をかける。
「か、和真さん…!」
「あ。そうだ、今日は言ってくれないんですか?」
「へ…?」
慌てるあおいへ首を傾げた。
和真がカードを受け取る気がないことを悟ったあおいは、少し納得のいかない気持ちがありつつ、まずはお礼を言った。
「ありがとうございます…。えっと…いってらっしゃい、和真さん」
「はい、いってきます」
あおいの見送りに満足した和真は、微笑みを見せて出て行った。
和真が出た後の扉から、手元のクレジットカードに視線を落とすあおいは、うーんと悩んだ後にリビングへ引き返す。
片づけを終えると、スマホを見て千尋からの通知に返事をした。
スマホで時間も見ると、パタパタと走って自室へ向かう。
事前に用意していた服に着替えて、洗面所へ行った。
鏡越しに軽くメイクを施したり、髪の毛をとかしたりして、身なりを整える。
最終チェックとして鏡を見ると、よし、と呟いた。
千尋からの返事に気づくと、再度返事を送る。
そして、自室に戻るとカバンを持って玄関に向かった。
マンションから出たあおいへ、突然年配の運転手が声をかける。
「あおい様ですか?」
「え?あ、はい…」
「和真様からお伺いしております。小鳥遊家の専属運転手の三森です。どこまでお送りしましょうか?」
目が点になるあおいは、驚きのあまり言葉が出てこなかった。
「…和真さんが…?」
「はい。あおい様を送るよう言付かりました」
「お気持ちは嬉しいですけど…自分で行くので大丈夫です…」
苦笑いしながらなんとか断ろうとするが、焦る様子を見せた運転手は、あおいを引き止めようとする。
「え!和真様から送った後の連絡をするよう指示を受けておりますので…できれば乗ってください」
「~~~~っ……じゃあ…駅前まで…お願いします」
帽子を脱いでまで頭を下げてくれる運転手に、あおいは折れて車への案内を受けた。
ドアを開けられて車内に乗り込むと、シートベルトを締める。
(…和真さんの手配が早すぎる…すごい…。頑張らないと…!)
小鳥遊家として振る舞うことに、努力しようと決めたあおい。
車は走り続けると、見慣れた駅近くの風景が見えてくる。
「あ、ここで大丈夫です」
「かしこまりました。あぁ、ドアは私が開けますので、お待ちください」
駅前よりも手前で車を停めてもらうと、あおいはシートベルトを外した。