「ごちそうさまです」


手を合わせて食器を下げに行く。
何も言われないことに、自分が失礼だったのではないかと不安になったあおいは立ち上がった。


「あっ、ご、ごめんなさい!!今、失礼でしたよね!?あの…!」

「え?全く…僕が言葉を考えていて、食べ終わってからゆっくり話しましょう」

「は、はい…」


目をパチクリさせたあおいは、座り直すと食事を再開する。
しばらくして、食べ終わったあおいは食器を片付けたり、テーブルの食器を下げたりと後片付けをした。

そんなあおいの行動をじっと見続ける和真。


「…あの…何か…?」

「次からは僕もやろうと思ったので、あおいさんの動きを見学しています」

「……それじゃあ、これを冷蔵庫に入れてもらっていいですか?」


クスっと笑ったあおいは、お茶が入ったボトルを和真へ差し出した。
受け取った和真は、すぐに冷蔵庫へ向かう。

開けた冷蔵庫の中を見渡して、丁度良いスペースへボトルを入れて戻った。


「できました」

「ありがとうございます。あとは食器を洗うだけなので、大丈夫です」


あおいがキッチンへ向かうと、まるで子どものように後を付いてくる和真。
背後にいる和真の気配から、おずおずとあおいは振り返る。


「…えっと…洗い物をするだけなので…」

「あおいさんの隣でお手伝いをしたいです」

(これは…家事チェックかな…?小鳥遊家の基準があるとか?でも、和真さんはキッチンに入ったことない様子だったし…小鳥遊さんに報告される…?)


和真の行動の意図を考え続けるあおいは、しばらく考え込んだ。
なかなか了承をもらえないことに、和真は痺れを切らせる。


「迷惑でしたか?」

「違います!…和真さんはお仕事で疲れてるんですから、休んでほしい…と思って…」

「あおいさんを見たら疲れはなくなります」


まっすぐに見つめてくる和真の言葉に、あおいの顔は赤くなった。


「それに、あおいさんを見ていると落ち着く…と言うんでしょうか?ずっと見ていたいなとも思います」

「……じゃ、じゃあ…一緒に洗いましょう…」


真っすぐに、気持ちをぶつけてくる和真を直視できないあおい。
顔を逸らして、汚れた食器を水洗いする。

和真も一枚一枚丁寧に洗い流してくれ、気づけば終わっていた。
そして、あおいは重なった食器を食洗器の中に入れていく。


「これで洗うんですか?」

「はい。洗剤を入れてボタンを押したら、しっかり洗ってくれて乾燥までしてくれるんです!」

「これなら僕でもできますね」


(…本当に意外…お金持ちでも家事とかしようと思うんだなぁ…って思うのは失礼かな…)


お互いに濡れた手を拭き終えると、和真はさっそくポットに水を入れ始めた。