…―


タクシーで帰宅した和真は、到着したマンションを見上げる。
片手にはケーキの箱を持っており、深呼吸をしてマンションの中に入っていった。

エレベーターが7階について、降りた和真は昼間のあおいの父親との会話を思い返す。
気づけば家の玄関ドアの前にいた。

カードキーをかざして開錠すると、ドアを開けて中に入る。
玄関の照明をつけた頃に、リビングからパタパタと走ってくるあおいの姿が目に写った。


「おかえりなさい」

「……」


朝同様に、微笑んで迎えてくれたあおいをじっと見る。
あおいが不思議そうな顔で見てくるのに対して、和真は俯くと手で口元を覆った。


「か、和真さん…?」

「すみません…えっと…こういうことは初めてなので…思いのほか恥ずかしいのとなんだか…嬉しい…?というのでしょうか。顔が緩みます」


心配な表情になっていたあおいに対して、顔を上げた和真はあえて視線を逸らす。
和真の顔や態度を見て、つられてしまうあおい。


「…おかえりなさい、和真さん」


改めて笑顔で迎えたあおいに、和真は照れつつ返事をした。


「た、ただいま…、あおいさん…」


笑うあおいへ、持っていたケーキの箱を差し出す和真。


「お待たせしてしまったお詫びです。食後に一緒に食べましょう」

「わぁ…っ、私ここのケーキ好きなんです!ありがとうございます!」


嬉しそうな顔で受け取るあおいを見つつ、靴を脱いで和真は部屋に入った。
ちょうどあおいの隣に立った際に、視線を落とす。


「あおいさん、次の土曜日に一緒に出かけましょう」


和真は一言だけ残すと、そのまま歩き出してリビングへ向かった。
思考も体も停止しているあおい。


「どうしました?」


あおいがこないことに不安になったのか、和真がリビングから出てきた。
止まったままのあおいに、声をかけると再起動する。


「あ!あの!出かけるってどこにですか!?小鳥遊家の集まりとかですか!?」


勢いよく和真へ身体と視線を向けたあおいに、少し驚く和真だがすぐには答えずに考える仕草を見せた。


「先に着替えたいので、食事をしながらお話しましょう」


あおいに伝え終えると、すぐに自室へ引き返していく。
ケーキを持ったままのあおいは、呆然と立ち尽くして和真の背中を見送った。