親族控室は、一瞬の静けさに包まれるものの、父親が再度現状を伝える。
「い、いや…だから…娘がいなくなって…」
「いないことは見ればわかります」
今度は和真の言葉に動揺し始める両親。
すると、和真はため息をついた。
「だから、式はどうされますか?私の方は問題ありません」
「ちょ、ちょっと待ってください…!」
和真の言動に、あおいは大きな声を出してしまった。
振り返る和真は、あおいと視線を合わせる。
柔らかさを感じる目元だが、瞳には冷たさが宿っている、とあおいは感じた。
ハッと我に返ったあおいは、和真の元へ駆け寄る。
「あの、私…い、妹の海崎あおいです!」
「…あぁ…妹さんがいたんですね、初めまして」
「おね…新婦がいないのに、問題ないわけないじゃないですか」
会釈をした和真の挨拶に、違和感を覚えながらも、あおいは冷たい和真を責めるように言葉で返した。
すると、再び扉を叩く音がしたのだ。
一同が扉を見ると、老人が入ってくる。
老人は、胸元まで手を挙げるとフリフリ振ってきた。
「やぁやぁ、海崎くん」
「し、社長…!!!!」
「2人の門出にピッタリな天気だね、自慢の娘さんはどうかね?」
笑顔で近寄ってくるものの、慌てふためくあおいの両親。
「社長、新婦が失踪したそうです」
「和真…今日くらいは父さんで……んん?なんて?」
「もっ、申し訳ございません社長!!娘のすみれがっ…連絡がつかず…!!式の方が…!!私側の方から説明させていただいて、本日は取りやめと…もちろん、賠償金は払います!!」
父親はすかさず土下座をする。
ここで、あおいは初めて姉の結婚相手が社長息子であることを知ったのだ。
何度も何度も謝罪をする姿に、あおいも膝を折ろうとしたが、社長の言葉で止めた。
「ふぅん…いないものは致し方ない…が、今日は息子の晴れ姿なもんでねぇ…取引先を大勢呼んでしまっていてね」
「そっ、それは…!!」
「社の顔に泥は濡れん」
穏やかだった老人は、ピリッとした空気を出す。
この言葉の意味に気づくと、あおいたちは息を呑み、冷や汗を流した。
社長はチラリとあおいへ視線を向ける。
すると、にっこり笑った。
「そこの娘を代役にはできんかね?」