「あの…」
握っていた手に力を加える和真は、おずおずとあおいへ提案した。
「もし、食べていなければ、一緒に食べませんか…?」
「…はい、ぜひ!」
和真の手を握り返すと、笑顔で離す。
それから、ハヤシライスを皿へ盛りつけると、和真が運んでいった。
食器棚にあったスプーンを二つ取り出すと、あおいもテーブルへ向かう。
お互いに向かい合わせに席へついた。
「いただきます」
「いただきます…!」
綺麗に手を合わせて挨拶をした和真に続いて、緊張しながら続くあおい。
ただし、スプーンを持ったまま、じっと和真を見つめる。
口に運ばれていくハヤシライスと和真の動きに不安な眼差しを向けていた。
「……食べないんですか?」
「へ、ぁ!?…市販のルーですけど、味はどうかなって…」
「問題ありません」
無表情で答えると、和真は食事を続ける。
和真の回答に、あおいはなんとも不安な気持ちのままでいながら、自分も少しずつ食べ始めた。
すると、スプーンを置いた和真は、あおいへ質問をする。
「おかわりはしてもいいのでしょうか?」
「…んぐっ…は、はい!もちろん!注いできますね」
「ありがとうございます。先ほどと同じ量でお願いします」
空になった器をあおいへ渡すと、膝に手を置いてじっと待った。
できる限り、最初のご飯の量を意識してよそっていくあおい。
(…おかわりってことは…すごくお腹が空いてたのかな…)
ルーを注ぐと、和真の元へ運んでいく。
「ありがとうございます。いただきます」
和真へ皿を渡したあおいは、席について食事を再開し始めた。
静けさが家を包んでいたが、せっかくの良好な関係のきっかけを和真が作ってくれたことに対して、自分も続けようと顔を上げる。
「あのっ、和真さんはいつもこんなに遅いんですか?」
「今日はたまたまです。いつもは定時で帰宅してますが…大学時代の友人が家に来たがったので…撒いてきました」
「撒く……」
意外な答えに、少し引きつった顔になったあおい。
「…実は、あおいさんとの電話を聞かれていて、その友人が言い方に気をつけろと言ってくれたんです」
「なのに、撒いちゃったんですか?」
「はい。近々事情は打ち明けるつもりですが…妻であるあおいさんを見せられません」
(これは…小鳥遊家にふさわしいって思われてない…?違うな…小鳥遊さんの言い方は、違う意味があるから…うーん…)
考え込んでしまったあおいの様子に、スプーンを置いた和真は、顔を上げた。
「あ、言葉が違いますね」
「え?」
しばらく考え込む和真に、あおいはドキドキしながら待つ。