3月なのに素晴らしい快晴、と思わず口ずさんでしまうほど、空には雲ひとつない。
綺麗に着飾ったあおいは、とあるロビーでソワソワしていた。
時折、手鏡を取り出して、自分の髪型を見たりパーティドレスにゴミがついていないか、確認をしたりする。
最後に、肩下まである黒髪を編み込んで飾り付けをしている自分が写ると、手鏡をしまった。
「…お姉ちゃんのドレス、楽しみだなぁ…」
ポツリと呟いて、思わず笑みがこぼれてしまうあおい。
すると、スタッフから声をかけられた。
「恐れ入ります、海崎様のご親族様でしょうか?」
「え、はい…海崎すみれの妹です…」
「ご両親が親族控室にお呼びなので、すぐに向かわれてください!」
感じとるスタッフの様子に、あおいは小さな不安を覚えた。
すぐに早足で向かう。
「こんな大事な日に、何かあったのかな…」
親族控室についたあおいは、ノックをして扉を開けた。
「お母さん?何かあっ…」
「あおい!!すみれを見ていない!?」
取り乱したような母親から肩を掴まれるものの、状況がわからず驚くしかない。
しかし、姉のすみれがいない事実だけはわかった。
「お姉ちゃん…?先に来てるんじゃないの…?」
「それが…!!」
「今朝、家を出たきり…連絡がつかないんだ…」
父親からの説明を受けると、あおいはさらに驚いた。
今日は姉の結婚式。
主役の花嫁がいない…。
そんな事態を母親同様に、受け止めきれていない部分がある。
ハッと気づいてショルダーバッグからスマホを取り出そうとした瞬間、扉をノックする音で手を止めた。
「お姉ちゃん!?」
すぐに扉を開けると、目の前に黒髪のオールバックにした男性が現れたのだ。
勢いよく開いた扉にも関わらず、男性は眉ひとつ動かさず口を開いた。
「小鳥遊 和真です」
「…え?…あ…」
「海崎家のご家族に、改めてご挨拶に参りました」
用件を伝えると、和真はあおいを横切る。
スラリとした体型は、新郎のスーツからでも十分にわかった。
あおいの両親は、みるみる青ざめて和真へ頭を下げる。
「小鳥遊さん!!大変申し訳ございません!!娘が…すみれが…いなくなってしまい…」
「……で?」
あおいも両親も、和真の返答に時が止まった。