「…そっか…。どこの高校に行くの?通学とか放課後とか遊べる距離?」
「……明望学園……」
「明望学園!?セレブとかお金持ちが行く学校じゃん!!」
千尋の声のボリュームで、思わず電話口から耳を離すあおい。
ソロソロと再びスマホを耳に当てると、苦笑いをしながら千尋に答えた。
「学校も遠いから、近くに…い、家を借りてもらったの!」
「え!?一人暮らしってこと?すご!」
「うーん、うん…本当にすごいよね…びっくり」
力なく笑ったあおいは、千尋へ嘘をついている自分が、だんだんと嫌になってくるのを感じた。
それからは、黙ってしまったあおいに、千尋が問いかける。
「ねぇ、あおい…大丈夫じゃないときは、ちゃんと連絡してよ?今もなんか…無理してるように思うんだけど…」
「え!?…だ、大丈夫だよ!も~ちーちゃんは心配性だな~。でも、ありがとう…」
「小学校からの付き合いよ?考え込む性格って、私が一番知ってるんだから!じゃあ、また連絡するね」
夜の挨拶を交わした2人は、電話を切った。
あおいの耳元で通話が終了した音が響くが、しばらくその音を聞いていたあおい。
パタリと腕を下ろすと、すみれから返信がないか、チェックをする。
既読がつかないまま、変わらない画面を見ていたあおいは、ポツリと呟いた。
「……学校…一緒に行きたかったなぁ…勉強、頑張ったのになぁ………っ」
ようやく落ち着いたからなのか、これからのことに対する不安なのか…あおいの目からは涙がポロポロとあふれ出した。
ゴシゴシと目を擦り、必死に涙を拭う。
「…ヒック…っ……ふっ…うぅ…」
拭っても拭っても止まらない涙。
嗚咽を漏らしてしまいそうな声も抑えようと、唇を噛みしめるが…漏れ出てしまう。
部屋から微かに漏れてくるその鳴き声に、コーヒーカップを持ったまま、部屋の前で立ち止まっていた。
しかし、泣いていたあおいへ声をかけることはせず、そのまま隣の自室へと入っていく。
和真は、鳴き声を聞こえないようにするためかのように、部屋のドアを閉めた。
…―