和真の瞳から何かを感じた…。
しかし、うまく言えないあおいは、言葉が出てこないまま、和真と見つめ合う。
「あの…」
「は、はい!」
「この部屋です」
あおいは、手で示された方へ視線を向けた。
ドアの左側には、部屋の数字が表示されている。
「703号室…」
あおいが読み上げていると、和真は胸ポケットからカードキーを取り出し、新居の家を開錠した。
ガシャリと鈍い音が響くと、あおいの心臓もドクリと鳴る。
本当に目の前の男性と夫婦を演じ、一緒に暮らすという現実が自分に起ころうとしているのか…、不安は一気に大きくなった。
そんなあおいの気持ちに気づいているのかいないのか、和真は構うことなくドアを開ける。
「どうぞ」
「…お邪魔します…」
あおいを先に入れると、和真も続いて入り、ドアを閉めた。
和真が真後ろにいること、真っ暗にも近い状況に、変に意識してくるあおい。
背中の方から和真の声が聞こえる。
「そこのスイッチを押せば、明かりがつきます」
「は、はい!えっと…」
「ここです」
あおいがスイッチに手が当たった直後に、和真の手が覆い被さった。
パッとついた照明と同時に、和真の手を直視する。
「…失礼しました」
「ごめんなさい…!!」
「先に入ります、スリッパをどうぞ」
恥ずかしさから顔を下に向けるあおい。
お互いに手を引っ込めるものの、和真はすぐに対応を始めた。
靴を脱いで上がると、横にある靴箱を開けて、スリッパを取り出す。
まるで動じていない和真に戸惑いつつも、ふと和真の様子から勝手がわかっているのだな、と感じたあおい。
「この新居って、小鳥遊さんの自宅ですか?」
「いえ、自宅は引き払いました…間取りは渡された資料に入っていたので、覚えています」
(大人って…そういうもの…なのかな…?)
質問にはしっかり答えてくれる和真に続いて、あおいも靴を脱いだ。
用意してくれたスリッパを履くと、一緒にリビングへ入る。
和真が電気をつけると、広い間取りと大きな窓、さらには家具がしっかり揃っている綺麗な部屋に、あおいは驚いた。
「すごいですね…私の部屋より広い…」
「20畳だそうです」
荷物を置いた和真が具体的な広さを教えてくれるが、ピンとこない。
あおいを置いて、和真はキッチンへと向かった。
食器棚からコップを取り出している和真の様子を気にしながら、あおいは大きな窓へと近寄る。
高層階から見えるような景色ではないものの、様々な照明に照らされる建物を見つめた。
姉を祝福するつもりの一日が、怒涛の人生を送ったようにも感じるあおい。
ぼんやりと景色を見つめ続ける。
ピピピピピ!
(!?)
部屋に鳴り響く音に、あおいの体が跳ねた。