少し会話をした後に、あおいは電話を切った。
「…ありがとうございます…終わりました」
「そうですか」
淡々と答える和真に、あおいは再び気まずい雰囲気に戻ったことを感じ取る。
握りしめたスマホによって、あることに気づいた。
「あ…小鳥遊さん、いくつか聞きたいことが…」
「はい、構いません。でも、運転をしているので新居についてから、また話しましょう」
(…暗に話しかけるな…ってことかな…?)
カバンにスマホを入れると、膝に手を置いて見知らぬ景色を眺める。
無意識に小さなため息をついていたあおい。
その様子を、和真はチラリと見ていた。
…ー
ウトウトしていたあおいは、車が停まったことにも気づかないままだった。
「つきましたよ」
和真の声に、ハッと起きるものの…すでに運転席に和真はいなかった。
まだ、意識がハッキリしていないのか、状況をりかいできていないあおい。
助手席側のドアが開いた。
「荷物、持ちます」
和真に言われるまま、持っていた大きめのバッグを渡す。
続いて、あおいも車から降りると、今いる場所が地下駐車場であることに、ようやく気付いた。
車のロックをかけると、歩き出す和真。
あおいも後に続く。
2人でエレベーターに乗った後に、あおいはボタンの多さに驚いた。
「…何階まであるんですか?」
「25階ですね」
答える和真は、7階のボタンを押す。
「最上階じゃないんですね…」
エレベーターが動き出すと同時に、和真はあおいへ顔を向ける。
思っていたことを口に出していた、と気づくのが遅れたあおい。
「あっ!ごめんなさいっ…最上階のイメージだったので…」
「………」
言い訳のように、理由を打ち明けたあおいから、和真は視線を正面へ戻した。
車内以上の気まずい雰囲気を作り出してしまった自分に対して、あおいは落ち込んだ。
「…金持ちは好んで高層階に住みたがる…と、大学の頃に言われたことがありますが、私は効率が悪いと感じるので、良いとは思いません」
「はぁ…」
「エレベーターの移動時間が長いうえに、災害があった時は最上階の避難が遅れます」
和真が話を終える頃に、エレベーターが止まった。
扉が開くと、2人は歩き出す。
「そうなんですね…小鳥遊さんは高い場所は平気なんですか?」
「………」
あおいの質問に、和真の動きがピタリと止まった。
自然とあおいの足も止まる。
不思議に思い、ソロリと和真の顔を覗き込んだ。
顎に手を添えて考える仕草を見せる和真。
「…考えたことがありませんでした…」
「え?」
「業務の接待でも高層階に行きますが、特に何も思わなかったので…」
呟くように答えた和真の表情に、あおいはじっと見入った。
あおいは、和真から視線を向けられるとドキリとする。