あの日、僕は見た、春の初め、桜が咲いていた頃、君が桜の木の下で、とても輝いていたんだ。
あの時の君を表す言葉はどれも思い当たらない。足りないんだ。綺麗な黒髪を揺らして、話す君は綺麗で、君の黒髪は白い肌にぴったりだ。でも君はいつも何かを見ていて、何も見ていない。
君には何が見えてるの?何を知ってるの?知りたくて、君に手を伸ばした。 ただ、君は優しく笑ったんだ。
その笑顔が、とっても綺麗で、でも直ぐに壊れそうで、すぐになくなりそうで、消えてしまいそうで、ただ怖かった。君はなんでも知っている。俺の世界は君の思い通りに行っていて、君の書く物語のようだ。すごく辛いこの感情も、嫉妬も、悲しみも、含めて全部君から貰ったプレゼントだ。
何かをあげたかったんだ。君にひとつでも返したかった。でも、

君のために何かをしようとしてもどれもが全部覚束なくって ただ君を見つめた。
君はふわりと笑って鈴を転がした。


一瞬で俺の体には恋が体を走った。



そんな春があった。でも春が終わった途端、君は消えたんだ。毎日居たはずの君は、春の終わりに近づく度に、桜の木の下にいたはずの君は、少しずつ姿を表さなくなった。桜の花びらは、残り1枚。君が現れた。綺麗だった。どこか悲しそうに見つめた後に。

『さようなら。』


これだけを残していなくなったんだ。
次の春、君はまた現れた。
なんで春だけにいるんだ?そう聞くと、君は不思議そうに、
((あなたは素敵な人ね))
そう言った。もう、君には会えなくなった。もう会えないし、もう居ない。でも桜を見る度に君を思い出すよ。
今、桜の木は切り株状態だ。
綺麗な桜はなくなった。君はもう来ないだろう。桜がないから。そう思っていた。
君が現れた。怒っていた。笑顔だけど。そう感じた。寂しくなんかないわ。そう言って。


二度とここには現れなかった。