【明愛side】

亜留に家まで送ってもらい、亜留に手を振ってから家の中に入る。
家の中は暗く静まり返っていて電気をつける。
ローファーを脱いでリビングに入るとダイニングテーブルの上に一切れの紙がおいてある。
お母さんとお父さんからの置き手紙みたい。
『お父さんとお母さん急な出張が入っちゃったから今日は家に帰れないの。夕ご飯は冷蔵庫の中に入ってるからそれ食べてね。お母さんより』
少し丸っこい字で書かれた文字はすぐにお母さんからだとわかった。
お父さんとお母さんは共働きで同じ会社で働いている。
お父さんは出張が多めだけど、お母さんも出張なのは、珍しい。
「今日は家で一人かぁ…。」
私の家は大きい洋風な一軒家で夜に一人となると結構怖い。
おばけとかそういうのじゃないけど…。
ソファに寝っ転がって天井を見上げる。
「亜留…」
バッ…。
不意に亜留の名前を読んで自分の顔を両手で覆う。
いつの間にこんなに好きになってたんだろうね。
名前を呼ぶだけで顔赤くしちゃう自分に驚く。
「……」
目を瞑ると亜留の顔ばかりが浮かんでくる。
泣き顔、笑顔、怒り顔、変顔、いろんな亜留を見てきたけど、いつもおちゃらけてる亜留のあの真剣な顔は初めて見た。
プルルル…プルルル…。
突然机の上に置いたスマホが鳴った。
慌ててソファから起き上がってスマホを確認する。
画面には『木澤 亜留』の文字が映し出される。
亜留からの着信に胸を高鳴らせて、一度深呼吸をする。
『…もしもし?』
電話越しから聞こえる亜留の声。
「もしもし亜留?どうしたの?」
『ああ、いや、今日杏奈と母さんいないから』
「あ、そうなんだ、私も今日、家に誰もいなくてさ」
『じゃあ家行って良い?』
その言葉に心臓が大きく跳ねる。
「来て、ほしい…」
私の口から出た言葉は思ったより小さくなってしまった。
『あはは、しょうがねぇな。すぐ行くからちょっと待ってろ』
よかった、亜留には聞こえてたみたい。
「うん、待ってるね」
私は小さく微笑んでから電話を切った。
亜留が私の家に来てくれるっていう安心感と嬉しさが込み上げて、一人でニヤついてしまった。

あれから数分。
…ーピーンポーン
私の家のインターホンがなった。
「はーい」
「よっ、さっきぶり」
玄関を開けると黒いカーゴパンツに白い無地のTシャツ、それと三角の飾りのついたネックレス。
かっこいい…。
見た瞬間一瞬で思った言葉。
「明愛?」
「あ、入っていいよ」
「おじゃましまーす」
リビングに案内して二人でソファに座る。
「お腹空いてない?」
「腹ぺこ」
「ふふっ、なんか作ろうか?」
「え、明愛の手料理?うわぁ、楽しみぃ」
ソファから立ち上がって台所に向かう。
台所に立ったらリビングが見える仕組み。
「なんかみたいのあったらテレビつけていいよ」
「ああ」
亜留に声をかけてからお気に入りのエプロンを付ける。
さて、なに作ろうかな…。
無難にクッキーとか…、いや、夜ご飯じゃなくなっちゃうか…。
悩みまくった結果、オムライスを作った。
お母さんが家にいないから、自分でご飯を作るのは久しぶりだったけど、思ったより上手にできた。
「おまたせっ」
「めっちゃいい匂い、食べていい?」
机の上に置くと身を乗り出す亜留。
「もちろん!どんどん食べてっ」
「「いただきます」」
二人で手を合わせてからスプーンで食べ始める。
「うっま!」
笑顔で食べてくれる亜留を見ていたらこっちまでほっこりする。
大きく作ったオムライスは二人で食べると一瞬だった。
亜留と一緒に夜ご飯なんてすっごい久しぶり。
小さい頃はこんなの日常茶飯事だったのにな…。
夜ご飯を食べ終わってからはのんびり過ごした。
映画を見て泣いたり、色んな話をしてたら時間はあっという間に過ぎていった。

ブーッブーッ…。
夜11時を回った頃、私の携帯が鳴った。
画面を見ると潤羽からの着信。
「あっ!」
そういえば、潤羽と買い物行く約束してたの忘れてた…。
「もしもし…」
恐る恐る電話に出てみると案の定。
『もしもし!めい!』
電話越しでもわかるくらいカンカンに怒ってる潤羽の声。
「ごめっ…」
『今日教室で亜留にチューされてたでしょ』
私の言葉を遮った潤羽の言葉に耳を疑う。
潤羽に放課後の出来事を見られてたってこと?
でも教室には誰もいなかったし…ってことは、廊下から…?
『あんたたちってそういう関係だったの?』
「あ、えと…そのぉ」
「誰と電話してんの?」
亜留がタイミング悪くお風呂から出て来てしまった。
『えぇ!もうそこまでいってんの?!』
亜留の声が聞こえたからかいきなり大きく叫びだす潤羽。
「また後でかけ直すから一旦切るねっ!」
『え、ちょっとまって!』
潤羽の言葉を聞く前に電話を切った。
「明愛?」
「潤羽と電話してた」
「なんだって?」
「んー、なんでもないよ」
潤羽にキスシーンを見られてたなんて口が裂けても言えない。
ちゃんと隠してるつもりだけど、顔赤くなったりしてないかな…?
「なんでそんなに顔赤いんだよ?」
やっぱり赤くなってるんだ…。
「赤くなってないっ!」
こうやって強がってるけど自分でも赤くなってることは知ってる。
だって、放課後を思い出すと顔が熱くなる。
「そういえば、私の部屋はベットが一つしかないからリビングで布団敷いて寝る?」
「いや、一緒に寝ればよくね」
「え…ぇっ!?」
亜留ってこんな事言う子だったっけ…?
やばい絶対顔真っ赤だよ…。
「別にいいだろ?俺ら付き合ってるんだし」
「な?」と私の顔を覗き込む亜留。
こんな感じに言われたら断れないじゃんっ!
私はなにも言わずコクリとうなずいた。

亜留の言葉に流されて隣で寝てるけど、眠れない。眠れるわけがない

【明愛side】

亜留と付き合ってからかれこれ五ヶ月。
亜留と過ごす日々は、ほんとに幸せで、デートもいっぱいしてきた。
そして…今月はクリスマスという大きなイベントがある。クリスマスは一緒に過ごすことを約束している。
「…寒っ」
潤羽と登校してるときに「はぁー」と息を吐くと一瞬で白くなる。
今年の冬は過去一の寒波が来てるらしい。
家から出た途端、風が吹いて体全体が小刻みに震える。
「亜留に温めてもらいな」
「えぇ、恥ずかしい〜」
「なに言ってんのよ。もう五ヶ月目でしょ?」
「うーん…」
潤羽には亜留と私の関係を言った…っていうか、バレた。
私がこのこと言ったとき潤羽は目を輝かせて聞いてたな。
その様子を思い出すと自然と笑みがこぼれた。
「めい、まさか亜留のこと思い出してたでしょっ」
自信満々に言う潤羽にまた笑いが込み上げてくれる。
「ん〜違うねぇ」
「えっ!じゃあ誰のこと考えてたの?!」
「潤羽のことっ」
「え、めいまさかそっち側の人…?」
「ちがーう!そんなんじゃないからっ!」
そんな事を話してるといつの間にか校門の前までついていた。
「明愛、はよ」
校門の前の柱に寄りかかってた亜留らしき声が私を止めた。
「うん、おはよ…って」
「ん?」
後ろを勢いよく振り返るけど、亜留らしき人物はいない。
その代わりに亜留くらいの身長の男の子が私の近くにゆっくりと近づいてくる。
「何だその顔」
笑いながら聞いてくる男の子の声は亜留とそっくり。
それに笑った顔があると瓜二つってことは…。
「亜留、なんか変わった…?」
「お、気づいた…って流石に気づくか」
ははっと白い歯を見せて笑う亜留。
私の目の前にいる亜留は先週と違って黒髪ストレートじゃなくなり、茶髪でパーマっぽくなった髪。
この土日でなんかあった?ってほど変わりすぎている。
「どう?」
首をかきながら照れくさそうに笑う亜留。
「似合ってるよ」
「かっこい?」
かっこいいってどころじゃなく、アイドル並みにかっこよくなった。
先週も大人しそうでかっこよかったけど、今はもう、チャラく見えてしまうのに亜留だからかすごくかっこいい。
「かっこ、いい…」
私が言うと亜留はパァッと表情が明るくなった。
「あーもうあんたたち校門の前でラブラブイチャイチャしないでよ」
「ごっ、ごめん」
潤羽に指摘されて心臓がドキッと音を立てる。隣りにいる亜留を横目で見ると目があってそらされてしまった。
「めいたちはいいよね〜、恋人が同じ学校で」
そう言いながら昇降口に行ってしまう潤羽。
「俺たちも行くか」
「う、うん」
亜留と一緒に登校することにはもう慣れ、小さい頃は小学校に上がる前に引っ越していっちゃったから、一緒に遊ぶことはあっても一緒に学校まで登校することはなかったから二人で行こうって言われたときはほんとに緊張したけど、亜留が話を振ってくれたおかげで緊張感はすぐにほぐれた。
亜留と付き合ってからは学校の女子たちから恨みを買われるようになって何回呼び出されたことか。
でも毎回亜留が助けに来てくれてたから大事には至らなかったけど、最近ずっと亜留に助けられてる気がする。
ちらっと亜留を見ると亜留もこっちを見ていて恥ずかしくなって先にそらしてしまう。
「明愛?」
「ん?」
「呼んでみただけ」
ニヒヒと白い歯を見せて笑う亜留はいつまで経っても変わらない無邪気な少年みたい。そんな笑顔が私は大好き。

靴箱まで来ると回りにいる先輩たちから鋭い視線が刺さる。
「なんでアイツが亜留くんの彼女なわけ?」
「ちょっと仲がいいからって調子に乗っちゃってさ」
わざとらしく私に聞こえるように言ってくる先輩たち。
私は亜留と釣り合うほど可愛くもないし、仲がいいっていうのも確か。だけど私が亜留の彼女ってだけでこんなに荒れるなら亜留に迷惑だとか思ってしまう。
「先輩」
私がうつむいていると先輩たちの方から亜留の声が聞こえて目を向けると、先輩二人に話しかけている亜留の姿。
「あ、亜留くん。おはよっ」
さっき私のことを見る視線と打って変わって満面の笑みで亜留を見る先輩たち。
「おはよじゃないっすよ。俺の彼女のこと悪く言ってましたよね?」
「えぇー?なんのことー?」
「そうやって言う女が俺一番大嫌いなんですよね。」
亜留は笑顔を作りながら言っているが言葉には気持ちがこもってないように聞こえる。
「な、なによ。もう行こ」
「う、うん」
先輩たちはそそくさと走って行ってしまった。
また亜留に助けられちゃったなぁ……。
「聞こえてただろ?」
ニッコリ振り向いて亜留の大きな手が私の頭に触れる。
「うん、ありがと」
照れくさくてそっぽを向いてしまう自分が情けない。
もしここですごい可愛らしい笑顔が出来たら亜留はどんな顔するのかな?
ドキってしてくれるかな?
次々にそんな疑問が浮かんで試したくなる。でもそんなこと私に出来るはずもなく……。
キーンコーンカーンコーン…
「あ、やべえ、急ぐぞ」
朝のHRが始まる鐘がなると、亜留は私の手を掴んで走り出した。