もう届かない君へ

「ごめん、心乃葉ちゃんおまたせ〜」
心乃葉ちゃんには、更衣室で私を待ってもらっていたのだ。

「花純〜圭斗くんとの話は、もういいの?」

「うん!圭斗、心配性だからポール倒しにめちゃくちゃ反対されたけど、なんとか認めてもらった!」

「圭斗くんは本当に花純のことが好きなんだね。」

「〜っ!幼馴染として心配してくれてるだけだって!」

「そうかな?絶対両思いだと思うけど、、。そういえば、圭斗くんに告白しないの?」

「うん。今更告白したところで困らせちゃうかなって、、。」

「そっか、、。花純がそれでいいならいいんだけどさ。」

「さ、行こう!もうすぐチャイムなっちゃう!」

「ホントだ!早く行かなきゃ!」

―――――――
「なんとか間に合ったね花純。」

「ほんとギリギリだったね。次からはもう少し早く移動するようにしよう。」

「うん、そうしたほうがいいね。」

「では今日は、全員参加する種目の練習を行っていこうと思います。全員で行う種目には全員リレーと綱引きがあります。」
そう、先生が説明し始める。

「全員リレーは男女混合で行いますが、綱引きは男女に分かれて行います。今日は、他のクラスとの合同授業ではないので、綱引きの練習はできませんが、全員リレーに向けて精一杯練習していきましょう。それでは、まず、走順をみなさんで話し合って決めてください。」

「アンカーは勇気で決まりだろ。」
同じクラスの男子が言った。

勇気くんは、このクラスで一番足が速くて、小学校のときには大会で何度も優勝しているのだとか。
周りからも賛成の声が挙がっているのでこのまま決定しそうだ。

「じゃあ、アンカーは勇気で決定で!よろしくなー勇気!」

「あ、うん。わかった、、。」

あれ?勇気くんあんまり乗り気じゃなさそう?
このまま決めっちゃっていいのかな?

「じゃあ、他の人はそれぞれ希望があったら言ってー」
クラスの人がそうみんなに呼びかけている。

「花純!私達も希望言いに行こ!」

「心乃葉ちゃん、あの、、。」

「どうしたの?なんかあった?」

「ううん、やっぱりなんでもない、、。」

「急がないと希望通らなくなっちゃうよ!急いで急いで!」

「あ、うん、、。」

―――――――
今日の体育の授業は、大半を走順決めに費やして、残りの時間を簡単なバトンパスの練習をして終わった。

私は、手を洗いに廊下に出ると、突き当りの目立たないところに勇気くんがいた。
そこで、さっきのあまり乗り気でなかった様子を思い出した。

「あの、勇気くん?大丈夫?」

「え、えっと宮本さん?」

「あ、いきなり話かけてごめんね。さっきのアンカー決めのとき、あんまり乗り気じゃないみたいだったから、ちょっと気になって。アンカーになるの嫌だったら、まだ変えられるかもしれないよ?」

「、、、。」

「ごめん、余計なことだったかな?じゃあ、私はこれで行くね!」

「あ、待って宮本さん!!」
立ち去ろうとしたとき、勇気くんにそう呼び止められる。

「確かに、宮本さんの言う通りそこまでアンカーになるの乗り気じゃなかったんだ。小学校最後の運動会で俺アンカーやってたんだけど、あと一歩で優勝ってところで転んじゃってさ、それからちょっと自信がないんだ。」

「そうだったんだね。なんか、周りのみんなが勝手に盛り上がって断りにくくさせちゃったよね。私もあんまり乗り気そうなのに気づいてたのに、止めてあげられなかった。ほんとにごめん。だから、勇気くんがやりたくないなら、私からみんなに話すよ!」

「ありがとう、宮本さん。そう言ってもらえて、俺の気持ちに気づいてくれてすごく嬉しい。俺、もう一回アンカー頑張ってみようかなって、今思った。だから、大丈夫。ほんとにありがとう!」

「大丈夫?無理してない?」

「うん、大丈夫だよ!」
そういった勇気くんは少し吹っ切れた顔をしていた。
彼の役に少しでもたてたなら良かった。

―――――――
「花純、遅かったじゃねぇか。どこいってたんだよ。」
教室に戻ると圭斗に話しかけられる。

「えっと、勇気くんに相談にのってたの。」

「勇気って、東雲のことか?」

「うん、そうだよ。」

「なんで名前で呼んでんだよ。」

「え、他の子がみんなそう呼んでるから私もうつっちゃっただけだよ?どうして、そんなに機嫌悪いの?」

「べ、別に機嫌悪くなんてないし。じゃあ、また後でなっ」
そういって圭斗は教室を出ていってしまった。
いつもなら授業中も教室にいるのにな、、。
一体どうしたんだろう?