「文音、おはよっ!」


私は綾崎 文音。(あやさき ふみの)高校1年、吹奏楽部、担当楽器はアルトサックス。


馴染みのある声に振り向くと、そこにはいつもより早く部室にくる親友がいた。


「律」


彼女の名前は榎本 律(えのもと りつ)。
中学からの親友で私と同じ吹奏楽部員。
担当楽器はクラリネット。


文音が疲れた…と言いながら窓を開ける。
秋が深まる最近、少し肌寒く感じる。


あれ…今日クラ持ってない?


いつもはすぐに楽器の用意を始める親友に少しばかり違和感を感じた。


「おはよう律。今日はクラの用意しないの?」


思い切って聞いてみた。
なんて返されるか少し不安だな…。


「うん。実は急に図書当番入っちゃってー。福沢先生まじで意味わからんのだけど!?本当はやりたいけどさ…吹く時間無さそうだから文音のサックスを少し聞きに来た!」


残念…。でも急ならしょうがない。


私は綾崎 文音(あやさき ふみの)。
高校1年、吹奏楽部員、担当楽器はアルトサックス。


「それならしょうがないね。楽しみは放課後にとっておこうか」


「うん。ごめんね文音…!放課後一緒に吹こ!」


そう言って律は私に微笑む。
そして何かを思い出したような素振りをしてこう言う。


「あ、そういえば今日新入生が来るって言ってた!私の運命の相手だったりして…。」


「もしかしたらそうかもね。どんな子なのか楽しみ。」


新入生と聞くと思い出してしまう。


「ねー!吹部だったらしいよ。文音さーん、楽しみだったりします?」


律が少しニヤけながら聞く。


「え!?うん、少しだけだよ?少しだけね。」


駄目だ。絶対に顔に出てる…


「…楽しみにしてるでしょー?」


「…いや、えっ、と」


本当は文音の言うとおりで。
どう反応したらいいか分からず口篭ってしまう。


「……文音、どうしたの?」


「あ、ごめん、なんでもないよ」


ぼーっとしていた。


「ならいいけど!困り事ならこの私律に言ってくれたまえ!!」


キメ顔で笑いながらそう言う親友。


律は健気で可愛いな。


「ありがとう、律」


私も笑顔でそう返す。


この会話何回目なんだろう?


つい微笑んでしまう


いつもと何も変わらなくても、私は律と話す時間が好き。


「うん…あ!!どうしよ遅刻する!そろそろ行かなきゃ」


「せっかく聞きに来てくれたのにごめんね…!でも新入生の話してくれてありがとう」


「ううん。文音と話せただけで楽しかったから!じゃあまた教室で!」


「私も楽しかったよ。当番がんばってね。」


私の言葉を聞くと律は生徒指導の先生にバレないようにと小走りで図書室へ向かった。


駄目だ。早く練習しないと…


分かっていても頭から離れない。


新入生…吹部だった…



『お前がアルトで俺がテナー。…高校になったらデュエットするんだ。約束』

『うん、約束。私頑張るね!』



う…なんでこう…今、今なの!?


それは2年前に幼馴染と交わした約束の記憶。


今でも鮮明に蘇る幼馴染との毎日の記憶。


「曲練しないと…」

むしゃくしゃする気持ちを無理矢理抑え込むように、私は楽器を吹いた。


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