龍は千年、桜の花を待ちわびる

その日の晩、小規模な祝宴が行われることになった。祝宴というより、身内だけの打ち上げのようなものだ。

皇帝や皇后は私たちとは別に、国の重役たちと祝宴を開くとのことだったので、この場には皇憐、秀明、私、そして鬼の5人しかいなかった。


「え〜。では、怨念の成仏無事完了を祝して、乾杯〜!」


とんでもなく緩い秀明の乾杯を合図に、祝宴が始まった。と言っても、皆ぎこちない雰囲気だった。

恐らく、彩雲の一件があったからだろう。


「…ねぇ、秀明。」
「ん?」
「秀明は、知ってたの? …彩雲のこと…。」


そう訊くと、一気に場が静まり返った。


「…うん。」


秀明は柔らかく微笑むと、そっと目を閉じた。


「彩雲が鬼になってわりとすぐかな…。あくまで憶測ではあったけど…。」
「そんな…。」
「もちろん、本人にはその段階で伝えてあったよ。だから今日、あの場に彩雲が来ないだろうとは薄々思ってたよ。」


ゆっくりと目を開くと、視線を焔に移した。


「彩雲は、この1000年間…幸せだったかな。」
「…あぁ。特にこの数年は、愛する女が初めてできて…この上なく幸せそうに、俺には見えた。」


焔が柔らかく微笑んでそう言うと、秀明は満足そうに笑って「そっか」とだけ言った。

皆もそれを聞いて安心したようで、先程までの空気とは一変して優しく笑っていた。


「そういや秀明。」
「何? 皇憐。」
「俺はお前に礼を言わなきゃならねぇことがあるんだ。」


その顔は笑ってはいるが…明らかに怒っている。そういえば、いつだったか変な笑みを浮かべていた時があったことを思い出した。


「え〜、何だろう。ちょっと僕も昔の記憶曖昧なんだよねぇ。」
(とぼ)けんじゃねぇ! 俺の廟に“桜琳”を置きやがって!」
「え? 私?」


何のことだと困惑していると、皇憐がぷんすか怒りながら事の経緯を説明してくれた。


「な、何か…自分の骨の話をされてるのって、複雑な気分…。」


そう苦笑すると、秀明も苦笑した。なんせ秀明の骨も皇憐の廟とは別の廟に保管されているのだ。


「でも寂しくなかったでしょ? 側に桜琳を感じられて。」
「感じるわけねぇだろ!」


茶目っ気たっぷりに惚ける秀明と、それに翻弄される皇憐。まるで、昔に戻ったようだ。

微笑ましくその光景を見ていると、私の視線に気付いた皇憐はバツが悪そうに頭を掻きながらそっぽを向いた。

そんな皇憐を見て、秀明は楽しそうにニコニコしていた。