龍は千年、桜の花を待ちわびる

「光の柱…消える…。」


空の声でハッと空を見上げると、丁度光の柱が細く筋になって消えていくのが見えた。


「皇憐…! 皇憐は!?」


慌てて上空を探すも、皇憐の姿は見当たらない。


(まさか、一緒に成仏したなんてこと…ないよね…!?)


他の皆も慌てて空を見上げ、皇憐を探し出した。ただ1人、秀明を除いて。

秀明は俯いていた顔を上げると、苦笑して言った。


「いい加減出ておいでよ、皇憐。」
「え…。」


動揺する私たちの目の前に、突如眩い光の玉が現れたかと思うと、その光の中から人の姿をした皇憐が出て来た。


「皇憐…!」


ホッとしたのも(つか)の間、皇憐は無表情のまま私の方へ歩いて来た。


「皇、憐…?」


いつもと違う皇憐に困惑する私を他所に、皇憐は私の両脇に手を差し込むと、そのまま持ち上げた。


「きゃっ、皇憐…!?」


その瞬間、広場を囲っていた結界がガラスが割れるように砕け散った。それは淡い桜色をしていて、まるで、桜の花びらのようで。

皇憐はゆっくりとその場で回った。


「桜の精みたいだ。」


笑ってそう言うものだから、私はまた涙を零した。昨日からずっと泣いてばかりだ。

だけど、この涙は違う。


「何それ…!」


そう言うと、私は皇憐の首に抱き付いた。皇憐は私をしっかりと受け留めると、力強く抱き締めた。


そして、気が付いた。

体温、鼓動、匂い、息遣い。皇憐を、近くに感じる。


「皇、憐…! っ、本物だ…。」
「あぁ。やっと…お前を近くに感じられる。」


少し離れて見つめ合った後、笑い合って。そのまま、再び抱き締め合った。

皆はそんな私たちを嬉しそうに見ていた。


けれど、その平穏は木通の声で破られた。


「う、あっ…!!!」
「木通!?」


皇憐に降ろしてもらうと、急いで木通に近付いた。木通は衣の(すそ)を掴んで、その場にしゃがみ込んだ。


「木通! 木通!」
「やだっ…。」
「え…?」


大胆に足元をはだけさせていた木通は、何とか足を隠そうとしていた。けれど、それだけでは間に合わなかったようだ。

足元に、血溜まりができていた。


(まさか…生理…?)


「そ、空! 女官呼んで来て! 女官に…木通、自分で説明できる…?」
「あぁ…。」


木通は顔を真っ赤にして体を強張らせていた。そんな木通を、スッと抱き上げた人物がいた。


「水凪…!? アンタっ…。」
「騒ぐでない、そなたの部屋へ一旦運ぶ。良いな?」
「っ…。」


急にしおらしくなった木通を見て、呆気に取られた。そしてやっといろいろなことに気が付いた。


「1000年経っても、相変わらず桜琳は鈍いままみたいだね。」


秀明にそう言われて、ぐうの音も出なかった。