勢い良く振り返ると、学ランを着た男の子が居た。

髪型や服装こそ違うけれど、間違いない。いや、間違えようがない。


「秀明…。」


呆然とそう言うと、秀明はニッコリと微笑んだ。


「久しぶり、桜琳。…で合ってるのかな、この場合。」


皆も秀明に気が付いたようで、周りに集まって来た。


「皆も相変わらず元気そうだね、よかった。」


呑気に笑う秀明に、皆は口々に文句を言った。久しぶりにこんなに汚い言葉を一斉に聞いた…。

秀明は苦笑しながら文句を受け止めた後、祭壇に目を向けた。


「……皇憐。聞こえる? ごめんね、遅くなって。」


秀明の言葉を聞いた瞬間、皆から怒りが一瞬で消えた。そして、一気に表情を引き締めた。


「君。」


秀明は先程まで震えていた男性に声を掛けた。

男性はいつの間にか秀明に憧れの眼差しを向け目をキラキラさせていた。
不謹慎だが、賢帝であり、恐らく彼らからすれば崇拝しているに違いない人物が目の前に現れたのだ。無理もない。


「皇帝や皇后に秀明が来たって伝えて。そして城門を閉めて、この広場への立ち入りを禁止するよう伝えて来てくれるかな。君もそのまま屋内に居てね。」
「は、はい!!」


男性は勢い良く返事をすると、あまりの勢いの良さに少し足をもたつかせながら走って行った。


「さて、と。」


秀明はぐるりと私たちを見回すと苦笑した。


「皇憐にもだけど、皆にも。遅くなってごめんね。特に桜琳、辛かったでしょ?」


そう言われた途端、涙腺が一気に緩んだ。後から後から零れる涙を我慢できない。


「秀、明っ…。」
「ごめんね。」


そっと私を抱き寄せると、ポンポンとあやすように背中を叩いた。


秀明だ。秀明が居る。

それだけで安心感がすごくて、まだ彼の口から何も語られていないというのに、必ず現状が打破されると思ってしまう。


秀明は体を離すと、微笑んだままそっとハンカチで私の涙を拭った。


その瞬間、城門が大きな音を立てて閉まった。周囲を見回すと、兵も居なくなっていた。


「よし。」


秀明は状況を確認すると、満足気に笑った。そして皆に向き直って真剣な表情で言った。


「これから、怨念の『成仏』を行うよ。正直、儀式において何が起きるか分からない部分もある。皆、覚悟はいいね?」


各々頷いたのを確認すると、秀明は術式の説明を始めた。


「今の状態で成仏の術式を使ってしまうと、中の皇憐まで一緒に成仏させてしまう可能性があるんだ。」


その言葉に、皆が一斉に息を飲んだ。


「だから、1度封印を解かなきゃならない。問題は、この時何が起きるか分からないってこと。怨念が溢れ出てくるのは間違いないけど、それが僕たちにどう影響を及ぼすのか分からない。
皆には僕が合図するまで、繰り返し曲の演奏を続けて欲しいんだ。止めていいと合図したら、怨念に対処してほしい。」


皆は1つ頷いた。それを認めて、秀明も1つ頷いた。


「その間に僕は、成仏の術式を行う。」


皆は再び1つ頷くと、封印の箱へと視線を移した。私と秀明も、箱へと視線を移した。


「終わらせよう。1000年もかかってしまったけど…、この因縁も、悲しみも。」


秀明はくるりと私を振り返ると、柔らかく笑って続けた。


「そして、『残りの奇跡』を起こしてあげる。」
「え…?」
「1000年も待たせておいて、これだけなわけないでしょ?」


そう笑って封印の箱へと向き直ると、声高らかに言った。


「さぁやるよ、皆。決着をつけよう。」