龍は千年、桜の花を待ちわびる

宮殿へは、少し無理をしたこともあって2日目の夕暮れには戻って来ることができた。焔の家に1日厄介になった分、可能な限り急いだのだ。


南の街を出る際、焔の我が儘で焔の彼女の家へ寄ってから出て来た。またしても熱い抱擁を見せつけられて、私はまた赤面してしまった。

「俺らもしとくか?」とふざける皇憐の肩を思い切り叩いてしまったが、申し訳なくはあるものの私は悪くない…。


そして街を出る門の所では見送りに来てくれた彩雲が大泣きして送り出してくれたので、人々の注目を集めることとなった。


そして首都までの道中で、先程の彼女との馴れ初めを聞き出して楽しんだ。

といっても、心中は複雑なものだった。『彼女たち』は皆、焔が不老不死であることを知り、過去に愛した女性が何人もいることを承知で隣に居たのだ。


焔を独り残して逝くことも、自分が逝った後に焔がまた誰かを愛することも承知の上での関係なんて…、今の私には考えられない。


(いや…、桜琳だった頃にも考えられなかったかもしれないな…。)


宮殿に着くと3人が出迎えてくれた。赤、黄、青、白。焔も加わって、より一層華やかだ。


(後は木通か…。)


封印にはどれ程の猶予があるんだろう。


「ねぇ、皇憐…。」


そう言いながら皇憐を振り返ると同時に、皇憐は胸を抑えて膝をついた。


「皇憐!?」
「っ…!」


「廟へ」と言う空に従い、皆で急いで皇憐の廟へと向かった。水凪に背負われた皇憐は胸を抑えて苦しそうにしていた。

廟に着くと、長椅子に皇憐を座らせた。


何が起こっているのか全く分からない。


鬼の皆は皇憐の鱗が入った水晶を持ってはいるものの、皇憐への干渉は出来ない。

頼みの綱の秀明は不在で、聞けば霊力を持つ人間は宮中に居るものの、秀明どころか彩雲にも遠く及ばないという。


「皇憐…!」


肩に触れようとすると、手が肩をすり抜けてしまった。


「!?」
「無理、だ…。実体を、保ってられねっ…!」


胸を抑えてグッと背中を丸める皇憐は本当に苦しそうで、何も分からず対応もままならない自分が悔しくて泣きそうになる。


「封印がっ、弱まってやがる…!」


急いで封印の箱を見やると、微かに黒い(もや)が漏れ出ているのが見てとれた。先日宮殿探検したときには漏れ出ていなかったのに。

霊力がない私でも見えてしまう程、漏れ出ているというのか。


(封印が…解けてしまうの…? どうすれば…。)


成す術を持たない私は、ただ呆然と箱を見つめていた。


「結っ…。」


名前を呼ばれてハッと我に返った。

皇憐に視線を戻すと、苦しそうな様子は変わらずだったが、その顔は笑っていた。無理矢理作っている笑顔だとすぐに分かるような笑顔だ。


「俺は、中に戻るっ…。」
「…うん。」
「秀明だけじゃねぇっ…、結のこともっ、信じてっからな…!」
「っ…! うん…!」