私たちが焔のいる南の街に着いたのは、宮殿を出てから3日目の朝だった。
本来であれば昨晩のうちに着けそうだったが、宿に泊まるより皇憐の鎌倉の方が快適だということに気付いてしまい、あえて到着を少し遅らせたのだ。
皇憐はいつものように水晶の気配を探っていた。
この南の街は、各地方の中でも最も人口が多く大きな街だ。
北の街は寒さが厳しく土地も痩せていて、男は鉱業、女は織物産業が盛んな街。住民は国の中では少し貧しい方に分類されてしまう。
西の街は草原地帯が広く、農牧が盛んな街だ。しかし北に比べればマシではあるものの、こちらも寒さが厳しい。
東の街は温暖で、夏には避暑地にもなることから観光業が盛んな街だ。そんな気候の良い街なので、こぞって富裕層が住んでいる。
となると、中間層が最も多く住むのがこの南の街。気候も丁度良いため農業が盛んで、海も近いため漁業も盛んだ。
そんな各地域の生産物が集まるのが首都。首都は商人の街でもある。
「見つけたぞ!」
皇憐はこちらを振り向くと、笑顔のまま私の手を握って歩き出した。
記憶を取り戻した今、桜琳の子ども時代と重なる。私はいつもこの手に引っ張られ、そして守られてきた。
先日は緊張していたくせに、今度は安心して顔が綻んでしまう。
焔の家は街のほぼ中央に位置していた。家の前に差し掛かった時、私は思わず小さく悲鳴を上げてしまった。
焔が女性と抱き合っていたのだ。
「送ってやれなくて悪い。気をつけて帰れ。」
「えぇ、ありがとう!」
そんな会話が聞こえてきて、私は赤面した。こんな朝にそんな会話を聞いてしまうと、思春期としてはついつい…。
私は女性が去ったのを見届けてから焔に声を掛けた。
「焔!」
焔はこちらを振り向くと、大きく目を見開き呆然とした。
「桜…琳…?」
「今は『結』っていうの。」
そう言いながら焔に近付くと、焔はおもむろに私を抱き締めた。あまりの力強さに、息が少し苦しい。
「焔…?」
「夢みたいだ…。」
そう言って私の頭に片手を回し、さらにキツく抱き締める。私は焔の背に腕を回すと、そっとその背をさすった。
少しして、背後からわざとらしい咳払いが聞こえた。
「そろそろうちの結ちゃん、離してもらっていいか?」
そう言って私の両肩に手を乗せた皇憐を見て、焔は一瞬キョトンとした後、私を抱き締めていた腕を解いた。
「そうか。」
嬉しそうに笑う焔を見て、こそばゆくなってしまった。そうだった、秀明の言い伝えは鬼の間でも周知されているんだった。
…というか、焔ってこんな風に笑う人だったっけ…?
「久しいな、皇憐。変わらず元気なようで安心した。」
「っつっても、秀明の読み通り妖気の塊だけどな。」
「そうか。」
なお嬉しそうに笑う焔を見て、私もつられて笑顔になってしまう。
前世の記憶を持った状態で再会するのもいいものだなぁなんて、呑気に思う。本来ならこんな奇跡、あり得ないというのに。
「ここではなんだ、中へ。」
そう焔に促されて、私たちは焔の家へと入った。
やはり家の正面は社のようになっていて、供物や賽銭箱が置かれていた。桜琳だった頃の記憶を取り戻した今、それを見ただけで安心してしまう。
本来であれば昨晩のうちに着けそうだったが、宿に泊まるより皇憐の鎌倉の方が快適だということに気付いてしまい、あえて到着を少し遅らせたのだ。
皇憐はいつものように水晶の気配を探っていた。
この南の街は、各地方の中でも最も人口が多く大きな街だ。
北の街は寒さが厳しく土地も痩せていて、男は鉱業、女は織物産業が盛んな街。住民は国の中では少し貧しい方に分類されてしまう。
西の街は草原地帯が広く、農牧が盛んな街だ。しかし北に比べればマシではあるものの、こちらも寒さが厳しい。
東の街は温暖で、夏には避暑地にもなることから観光業が盛んな街だ。そんな気候の良い街なので、こぞって富裕層が住んでいる。
となると、中間層が最も多く住むのがこの南の街。気候も丁度良いため農業が盛んで、海も近いため漁業も盛んだ。
そんな各地域の生産物が集まるのが首都。首都は商人の街でもある。
「見つけたぞ!」
皇憐はこちらを振り向くと、笑顔のまま私の手を握って歩き出した。
記憶を取り戻した今、桜琳の子ども時代と重なる。私はいつもこの手に引っ張られ、そして守られてきた。
先日は緊張していたくせに、今度は安心して顔が綻んでしまう。
焔の家は街のほぼ中央に位置していた。家の前に差し掛かった時、私は思わず小さく悲鳴を上げてしまった。
焔が女性と抱き合っていたのだ。
「送ってやれなくて悪い。気をつけて帰れ。」
「えぇ、ありがとう!」
そんな会話が聞こえてきて、私は赤面した。こんな朝にそんな会話を聞いてしまうと、思春期としてはついつい…。
私は女性が去ったのを見届けてから焔に声を掛けた。
「焔!」
焔はこちらを振り向くと、大きく目を見開き呆然とした。
「桜…琳…?」
「今は『結』っていうの。」
そう言いながら焔に近付くと、焔はおもむろに私を抱き締めた。あまりの力強さに、息が少し苦しい。
「焔…?」
「夢みたいだ…。」
そう言って私の頭に片手を回し、さらにキツく抱き締める。私は焔の背に腕を回すと、そっとその背をさすった。
少しして、背後からわざとらしい咳払いが聞こえた。
「そろそろうちの結ちゃん、離してもらっていいか?」
そう言って私の両肩に手を乗せた皇憐を見て、焔は一瞬キョトンとした後、私を抱き締めていた腕を解いた。
「そうか。」
嬉しそうに笑う焔を見て、こそばゆくなってしまった。そうだった、秀明の言い伝えは鬼の間でも周知されているんだった。
…というか、焔ってこんな風に笑う人だったっけ…?
「久しいな、皇憐。変わらず元気なようで安心した。」
「っつっても、秀明の読み通り妖気の塊だけどな。」
「そうか。」
なお嬉しそうに笑う焔を見て、私もつられて笑顔になってしまう。
前世の記憶を持った状態で再会するのもいいものだなぁなんて、呑気に思う。本来ならこんな奇跡、あり得ないというのに。
「ここではなんだ、中へ。」
そう焔に促されて、私たちは焔の家へと入った。
やはり家の正面は社のようになっていて、供物や賽銭箱が置かれていた。桜琳だった頃の記憶を取り戻した今、それを見ただけで安心してしまう。



