龍は千年、桜の花を待ちわびる

儀式の際は凛としていて、泣く素振りも全くなかった。祝宴中だって、微笑んで少しではあったが食事もされていた。


ふと、袖が長い衣装を用意して欲しいと言っていた桜琳様を思い出した。


(ずっと、自分の腕を傷つけながら耐えていたんだわ…。)


今だって、正式な秀明様の婚約者となった桜琳様の部屋には兵がつくようになり、外には警備の者がいる。

秀明様の婚約者である手前、恋仲であった皇憐様を想って泣く声を聞かれまいとしているのだろう。皆暗黙の了解で承知していたというのに。17の少女が、なんて気高い。


泣いたって、誰が(とが)められよう。きっと皇帝陛下も皇后様も、秀明様も鬼の皆様も、自室で今頃涙しているに違いない。

長寿である皇憐様は秀明様や桜琳様だけでなく、皇帝陛下や皇后様にとっても兄のような存在だった。涙の理由はさまざま。


泣くことは罪ではない。
けれど今日は、国にとっては『めでたい日』なのだ。


私は失礼を承知で桜琳様を抱き締めた。


「桜琳様、ご立派でした…。」


桜琳様はそのまま泣き続け、明け方泣き疲れて眠りに就いた。私は眠る桜琳様の腕の処置をした。ひどい傷ばかりだ。


きっとこの先も、この方はこうしていろいろなものを胸の内に秘めながら生きて行くのだろう。

この方だけではない、きっと今日涙を流している方々全員が…。


けれど、きっと1番お辛いのは桜琳様だ。


私は腕の処置を終えると、眠る桜琳様から一歩離れて最敬礼の姿勢を取った。


「この愛李、一生あなたにお仕え致します。」


私はこの時、生涯の主を心に決めた。