龍は千年、桜の花を待ちわびる

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祝宴は、食事は時世を考慮すれば豪華なものだったし、舞に演奏に、とても華やかなものだった。


今夜は無礼講とのことで、皇帝陛下や皇后様、秀明様や鬼の皆様は既に酔いが回った重役たちに笑顔で対応していた。

桜琳様と皇憐様の関係を承知の重役も多かったため、桜琳様に絡みに行く重役はほとんどいなかったが、桜琳様は微笑みながらその光景を見守っていた。


「桜琳様、思ったより大丈夫そうだな。」


後ろで控えていた私に、兵がこっそり囁いた。私は微笑んで頷いた。


「今朝は泣き腫らした目をされていたから心配だったけれど…。」


きっと彼女の中で、昨晩のうちに覚悟を終えていたのだろう。

未熟な私はそう信じていた。


やがて会が終わると、皇族や鬼の皆様、桜琳様は各々自室へと戻った。飲み足りない重役たちはそのまま飲み続けることを許可されたため、引き続き酒を煽っていた。


部屋に着き私が扉を閉めると、桜琳様はその場に崩れ落ちた。


「桜琳様!?」


私は急いで桜琳様の正面に回り込んでしゃがむと、手に持っていた灯りを側に置いた。そして息を飲んだ。


「桜琳様、お止めください! 爪が…!」


桜琳様は床に両手の爪を立てて俯いていた。既に何本か爪が折れたり剥がれかけたりしている。

咄嗟に両手首を掴んで持ち上げると、また息を飲んだ。


「桜琳、様…。」


手が、傷だらけだった。

俯く桜琳様の顔から零れ落ちる涙が足元に置いた灯りに反射して光る。それが美しいだなんて、不謹慎なことを思ってしまった。

桜琳様は片手を口元に持って行くと、口を塞いでそのまま背中を丸めた。体が震えている。


気付けば私も体を震わせて泣いていた。大丈夫なわけ、なかったのに。思ったより大丈夫そうだなんて。あの時の自分の頬を引っ叩いてやりたい。


掴んだままだったもう片方の腕の服を捲り上げると、腕は傷だらけだった。爪が食い込んだ痕、引っ掻いたような痕。血が出ている箇所もある。

もしかしたら、爪は今折れたのではないのかもしれない。そんなことを思いながら、儀式から自室に戻るまでの桜琳様を思い返した。