龍は千年、桜の花を待ちわびる

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皇憐が人柱になる。

そう聞いてから、もう2日が経ってしまった。

いよいよ明日、儀式が執り行われる。私は皇憐から封印の話を告げられた後、ただひたすら部屋でボンヤリしていた。
さすがに周囲も配慮してくれ、勉強や公務は休みをもらっていた。

実感が湧かないのだ。

皇憐がいなくなる。もう2度と会えなくなる。

そんなことを突然言われても、訳が分からなかった。だって、皇憐は不老不死で、会いに行けばいつも私を笑顔で出迎えてくれて…。


「桜琳!」


不意に名前を呼ばれて振り返ると、皇憐が居た。


「皇憐…。」
「……今夜、空いてるか?」
「? えぇ…。」
「じゃあ、桜林に散歩に行こう。また夜に迎えに来る。」


そう言われて、私は無言で頷いた。


そして夜、迎えに来た皇憐に連れられて、寝巻の上に衣を羽織った簡素な服装で外へ出た。皇憐も似たような服装だった。

桜林の桜は今が旬とでも言うかのように咲き誇っていた。上には満開の桜。前を向けば桜吹雪。下には花びらの絨毯。


私たちはここで始まった。ここで出会い、ここで口付けを交わして想いを伝え合った。そして今日、ここで終わるのか。


皇憐はしゃがみ込んだ私を後ろから強く抱き締めた。皇憐の温もりが、背中で感じる鼓動が、鼻腔を掠める匂いが、寂しさを駆り立てる。

私はボロボロと涙を零した。


「どうして…。どうして皇憐なの…。『側に居てくれ』って、皇憐が言ったのに…。」


やっと言葉を発すると、皇憐は私を抱く腕に力を込めた。


「俺じゃなかったら秀明だったんだぞ?」
「っ、2人だけじゃないっ、誰も居なくなって欲しくない…!」


皇憐を振り返ると、皇憐は困ったように笑った。正面から私を抱き締め直すと、私の頭に頬擦りした。


「お前がそんな風に泣いてくれて嬉しいだなんて、不謹慎だな。」


そう言って笑う声が頭上からした。私は皇憐の胸元の衣を掴んだ。皺になろうが構うものか。


「馬鹿よ、何が嬉しいよ…!」


そう罵った後、私は大きな声を上げてわんわん泣いた。
人柱の話を聞いてから実感が湧かず泣けなかった分の涙が今出ているかのように、止まることなく泣き続けた。

皇憐はずっと私を抱き締め、あやすように髪を撫で続けていた。