龍は千年、桜の花を待ちわびる

「秀明、考えたことあるか? 俺は、必ず桜琳を看取ることになるんだ。俺と桜琳の間に子ができたとして、その子も看取ることになるかもしれねぇ。」
「そんなの人間だって一緒だよ。いつ死ぬか分からない。」
「でも俺は、永遠に生き続けなきゃならねぇ。お前ら人間は、死ねるだろ。」


嘲笑うようにそう言うと、秀明はハッとした表情を見せた後、俯いた。


「お前ら鬼にも言えることだぞ。」


おもむろにそう言うと、鬼たちは身を固くした。


「お前らの不老不死が俺と同じなのかは分からねぇが、これから沢山の人間を看取るんだ。」
「…空…何回かある…。」


空の呟きを聞いた鬼たちは表情を曇らせた。

そう、コイツらだって同じなんだ。そのくせ、俺は一足先にその地獄から逃げようとしている。…ただの、卑怯者なんだ。


「……本当は、桜琳を看取ることに怯えてんだ。」


正直にそう言うと、秀明は目を見開いた。初めて弱音を人に聞かせた。笑っちまう。数千年も生きてきた俺が、こんな。


「国を巡ってる間に桜琳に何かあったらって不安になって。帰って来て笑顔で迎えてくれることに安心して。それを繰り返してるうち、怖くなっちまった。」


俺は乾いた笑いを漏らした。どうしようもねぇな。


「俺は桜琳を看取った後、アイツの居ない未来を、生きていく自信がねぇ。」
「じゃあ、桜琳はどうなるんだよ…!」


秀明が俺に掴み掛かった。


「桜琳は、皇憐なしで生きていかなきゃいけなくなるんだよ…!」
「……あぁ。」


まったく、自分勝手な男だ。自分でも嫌気がする。


「だから秀明、桜琳を頼む。お前、今でも本当は桜琳のことが好きだろ…? お前になら、任せられる。」


そう言うと、秀明は顔を歪ませた。悔しさ、悲しさ、やるせなさ、怒り。いろいろな感情が伝わって来て、こんなにも感情豊かな男だったのかとつい思う。


「……君の決意は本当に変わらないの…? 皇憐…。」


俺から手を離したかと思うと、秀明はボタボタと大粒の涙を流し始めた。


「……あぁ。」
「っ……、僕は、皇憐を兄のように慕っているんだよ。」
「…あぁ。」
「その僕に君を封印させるなんて…、皇憐は僕たちに、あまりに残酷だよ。」


秀明はボタボタと涙を流したまま笑った。気付けば、その場に居た全員が泣いていた。俺はただ苦笑していた。


「この封印、持っても1000年だと思う。」
「そうか。」
「必ず、成仏の術式を作り上げてみせる。」


そう言った秀明は泣いたままだったが、その表情からは固い決意が感じ取れた。俺はただ黙って頷いた。


「儀式は3日後に行おうと思う。……桜琳には…?」
「俺から伝える。」


そう言うと、皆は黙って頷いた。