龍は千年、桜の花を待ちわびる

そうして皇憐たちは各地に旅立って行った。


私は皇后になるための勉強を引き続き行い、秀明の公務を引き継ぎ、兵を連れて首都の治安維持に参加していた。

じっとなんてしていられなかった。


けれど私たちの思いとは裏腹に、怨念の影響はますます酷くなるばかりだった。


「飢饉に続き、疫病…。」
「怨念が怨霊になって人に襲いかかる場面にも出くわしたわ。」


戻って来た水凪と木通の報告に、私と秀明は動揺を隠し切れなかった。鬼は幸い不老不死なので、疫病の心配はない。

けれど…。


「戦時中かと思うほど酷い有様だ…。1番酷かったときよりはまだマシだが…。」


戻って来た皇憐は表情を曇らせて言った。

戻って来ては少し休養をして、また旅立って行く。皆はそんな生活を続けていた。私は皆を笑顔で迎え、笑顔で送り出すことしかできなかった。


そんな状況が続き、気付けば夏が終わり、秋が終わり、冬が終わろうとしていた。


「この国はどうなるのかしら…。」


皆が出払っているある日、私は秀明の元を訪ねていた。不安に押し潰されてどうにかなってしまいそうだ。


「今ね、怨念を『封印』する術式を作っているんだ。」
「封印…?」


私が首を傾げると、秀明は微笑んで頷いた。


「本当は『成仏』してくれるといいんだけど…、あまりにも怨念が強くてね、無理矢理は厳しそうなんだ。だから、封印して時間稼ぎをしようと思ってね。」
「時間稼ぎ…。」
「今すぐ強力な術式を作れればいいんだけど、今この国にそれを出来る人間はいない。術式を作れるのも僕しかいないんだ。だから少しでも怨念には大人しくしててもらって、その間に成仏の術式を作れればと思うんだけど…。」


秀明は困ったように笑った。

この人はなんてすごい人なんだろう。何もない状況から怨念への対処法を見つけ出し、こんな状況になってもまだ全く諦めていない。


「秀明なら絶対出来るわ…!」
「ありがとう。」


秀明は笑ってそう言うと、研究に戻った。


そうして冬が終わり、春が来た。また梅雨が来て、夏が来て、秋が来て、冬が来た。

そして私が17になった春、秀明はついに封印の術式を完成させた。