龍は千年、桜の花を待ちわびる

それからさらに数ヶ月経った頃、ついに怨念の対処法が見つかった。季節は梅雨を終え、夏に差し掛かろうとしていた。


「僕ら霊力を持つ者は霊力を、皇憐は妖力を流し込むことで対象者の体から怨念を追い出すことができます。鬼はそもそも怨念の適応者ですがそれ以外は普通の人間なので、何か能力を発現することはできません。しかし、皇憐の鱗を混ぜた水晶を介することで、力を流し込めます。」


会議に参加した秀明は、図解を用いながら説明した。

けれど正直、何の力も持たない私を始め皇帝たちは、原理は理解できても何だかピンとこなかった。


「さらに、力を流し込まれた対象者の体には僕らの力がしばらく残存するので、魔除けのような役割を果たし、再び怨念に取り憑かれる心配はなくなります。
実際に何人か怨念に取り憑かれた方を捕縛し実験を行いましたが、いずれも成功しています。」


皇帝を始め、会議に出席していた重役たちは感嘆を漏らした。


「これから2人1組で国中を周り、対応を進めていきたいと思うのですが、よろしいでしょうか。」


秀明が同意を求めると、賛同の声が上がった。こうして、皇憐・鬼たちは怨念への対応のため国中を巡ることになった。

秀明は宮殿に残り、全体の統括兼引き続き研究を。皇憐・鬼・彩雲を含め、追加で増えた霊力を持つ2名の計9人は国を巡ることとなった。


「皇憐は1人なの?」


支度する皇憐にそう問いかけると、「あぁ」と短く返事が返ってきた。明日から早速出発するというので、部屋に押しかけて来たのだ。


「俺は飛んだ方が早いし、怨念の影響を受ける心配もねぇ。2人1組っつーのは、怨念の影響を受けた時にもう1人が対処できるようにっていう考えあってのことだからな。」
「そうなのね…。」


なんだかんだ言いながらこの国が大好きな皇憐のことだ、効率良く各地を飛び回れるとなれば、人一倍働いてしまうだろう。

私は皇憐の背中にしがみついた。


「あまり無茶、しないでね。」
「あぁ。…でも状況次第では、しばらく帰って来れないかもしれねぇ…。」


皇憐は振り返ると、私の髪をゆるゆると撫でた。そんな皇憐に首を横に振る。

国も民も大事。皆も大事。皇憐も大事。私は何もできないくせに、守りたい物が多すぎる。


「私、何もできなくて…皆に申し訳ないわ…。」
「何言ってんだ、馬鹿。」


皇憐はギュッと私を抱き締めると、額をくっつけた。


「お前がこの国で生きていく、それだけで戦う理由になる。お前がここで待ってる、それだけで無事に帰って来たいと思える。」
「皇憐…。」
「皆がそう思ったから動くんだ。特に鬼の奴らなんて、あんな扱いを受けてたんだぞ? 自ら民を助けたいと思うわけねぇだろ。」


私は堪え切れずに涙を零した。

皆がそんな風に思ってくれていたなんて。何もできない私だけど、皆の心の支えになれるなら、それ以上に嬉しいことなんてない。

皇憐は私に口付けると、微笑んで涙を拭ってくれた。泣いてばかりいられない。皆の心の支えになるのなら、笑顔でいなくては。