龍は千年、桜の花を待ちわびる

「桜の中で…しかも俺の定位置で眠る桜琳を見たら、我慢出来なくて…つい。」


落ち着いた頃、皇憐に突然どうしたのかと問うとそう返ってきた。皇憐に寄り添うと肩に腕が回って、グッと抱き寄せられた。


「秀明になんて言おう…。言わない方がいいのかしら…。」
「それなら心配いらない。」
「え…?」


私は皇憐と秀明のやり取りを聞いて言葉を失った。まさか私の居ない所でそんな話をしていたなんて。


「今は怨念騒動でそれどころじゃねぇから、建前上はまだ婚約者でいて欲しいって言ってたぞ。落ち着いたら婚約破棄するつもりだと。皇帝と皇后も了承済みだそうだ。」


私は絶句した。ということは、秀明のことだ。皇憐だけでなく、私の気持ちにもとっくに気付いていたということか。
皇帝と皇后には実の娘のように可愛がってもらっている手前、自分勝手なことをしてしまって申し訳ない気持ちになる。

暗い顔の私を見て、皇憐は不貞腐れたように言った。


「それとも、今のはなかったことにするか?」
「それはっ…。」


嫌だ。

皇憐はそんな私の顔を見て、髪を撫でながら微笑んだ。


「俺も一緒に頭を下げる。だから、側に居てくれ。」
「皇憐…。」


宮廷内で絶大な権力を持つ皇憐が頭を下げるなんて、相当なことだ。皇憐の決意はそれ程までに固いということなのか。


「……ずっと、側に居させて。」


私はこの人の隣で生きていく。そう心に誓った。

その後、皇憐から秀明に報告すると祝福され、いつの間にか鬼の皆にも知れ渡り、最終的には皇帝と皇后にも祝福された。


「婚約の件はごめんね、今縁談とか持ってこられるとさすがにキツくて…。」


そう苦笑した秀明に、私は笑顔で首を振った。