あれからまた数日が経った。
秀明や皇憐、鬼、彩雲は対怨念の組織を立ち上げ、引き続き霊力を持つ者を募りつつ怨念への対応策を研究していた。
私はといえば、引き続き皇后になるための勉強をしつつ、多忙な秀明の手伝いになれればと公務を少し引き受けていた。
とはいえ、基本的な公務は皇帝・皇后が行っているので、私はすぐに手隙になってしまう。
私は桜林へ来ると、皇憐の定位置に座り込んだ。皇憐も最近は研究に忙しそうで、ここにはあまり来ていないようだ。
散った花びらが絨毯のようで、上を見上げれば桜がまだ咲き誇っている。前を向けば桜吹雪が雪のようで、視界全部がピンク色だ。もうすぐ春も終わる。
この国はどうなるんだろうか。何の力も持たない私は…、この国のために、何ができるんだろうか…。
そんなことを考えているうちに、いつの間にか眠ってしまったようだ。
髪と頬に触れる感覚で意識が戻って来た。けれど、眠くて瞼が開かない。
そうしているうち、唇に触れる柔らかい感触で完全に目を覚ました。
「……皇憐…。」
驚いて目を開くと、同様に驚いた顔をした皇憐が居た。私は震える手でそっと唇に触れた。
「今…。」
皇憐はハッと我に返ると、勢い良く顔を背けて立ち上がった。
「待って!」
私は皇憐の袖を掴むと、皇憐の正面に回り込んだ。皇憐は目を合わせようとはしなかった。そっと皇憐の両手を握ると、その手は少し汗ばんでいた。
「…ずるいわ、何も言わずに逃げるなんて…。私が眠っている間に…こんなことして…。」
そう言うと、皇憐はやっと私の方を見た。けれどその表情は歪んでいて。きっとその原因は、後悔と罪悪感なんだろう。
「…お、起きているときにして欲しかったわ。」
そう言うと、皇憐は目を見開いた。きっと私の顔は真っ赤だ、顔が熱い。けれど、真っ直ぐに皇憐を見つめた。
皇憐はやっと口を開いたが、動揺を隠し切れていなかった。
「お前…、何言って…。は、え…?」
「わ、私が眠っていないと本音を出せないような根性なしなの?」
そう言うと、皇憐は困惑しているようだった。正直、私だってこんなに強気に出るのは怖い。けれど、今を逃したらきっともうこんな機会はないから…。
私は握っていた皇憐の手を離すと、恥ずかしくて俯いてしまいそうになるのを必死に堪え、皇憐の目を真っ直ぐに見た。
そして、震えそうになる唇を1度グッと噛み締めてから言葉を紡いだ。
「…もう1度、して? 起きている私に、ちゃんと…。」
そう言うと、皇憐は戸惑いながら私の頬に両手を添えて、そっと私に口付けた。唇が離れた後そっと目を開くと、皇憐は片手の甲で口元を抑え、また目を逸らしていた。その顔は真っ赤だった。
私はそっと皇憐の胸に寄り添うと、その胸に手を添えた。とんでもなく早鐘を打つ鼓動が聞こえる。
「皇憐の鼓動、とっても早い。」
「う、うるせぇな、くっつくな!」
「嫌よ。」
笑う私に、ムキになる皇憐。じゃれあっていると不意に、皇憐に抱き締められた。
「好きだ。」
端的に伝えられた言葉に顔を上げると、皇憐は今度は真っ直ぐに私を見ていた。赤い顔。少し不安気な顔。でもすごく、真剣な顔。
私は皇憐の背中に腕を回すと、キツく抱き締めた。なんて、愛おしいんだろう。
「私も、好きよ。」
見つめ合って、もう1度口付けを交わした。離れて、笑い合って。こんな幸せが世の中にあるのか、と思った。
皇憐は私の両脇に手を差し込むと、そのまま持ち上げた。
「きゃっ、皇憐…!」
驚く私を他所に、桜吹雪の中、皇憐はゆっくりとその場で回った。
「桜の精みたいだ。」
「何それ…。」
そんな風に笑い合って、また抱き締め合った。
気が付いたら、好きだったの。でも私には秀明という婚約者がいて。この想いは封じておかなければいけないものだと、ずっとひた隠しにしてきたの。
秀明や皇憐、鬼、彩雲は対怨念の組織を立ち上げ、引き続き霊力を持つ者を募りつつ怨念への対応策を研究していた。
私はといえば、引き続き皇后になるための勉強をしつつ、多忙な秀明の手伝いになれればと公務を少し引き受けていた。
とはいえ、基本的な公務は皇帝・皇后が行っているので、私はすぐに手隙になってしまう。
私は桜林へ来ると、皇憐の定位置に座り込んだ。皇憐も最近は研究に忙しそうで、ここにはあまり来ていないようだ。
散った花びらが絨毯のようで、上を見上げれば桜がまだ咲き誇っている。前を向けば桜吹雪が雪のようで、視界全部がピンク色だ。もうすぐ春も終わる。
この国はどうなるんだろうか。何の力も持たない私は…、この国のために、何ができるんだろうか…。
そんなことを考えているうちに、いつの間にか眠ってしまったようだ。
髪と頬に触れる感覚で意識が戻って来た。けれど、眠くて瞼が開かない。
そうしているうち、唇に触れる柔らかい感触で完全に目を覚ました。
「……皇憐…。」
驚いて目を開くと、同様に驚いた顔をした皇憐が居た。私は震える手でそっと唇に触れた。
「今…。」
皇憐はハッと我に返ると、勢い良く顔を背けて立ち上がった。
「待って!」
私は皇憐の袖を掴むと、皇憐の正面に回り込んだ。皇憐は目を合わせようとはしなかった。そっと皇憐の両手を握ると、その手は少し汗ばんでいた。
「…ずるいわ、何も言わずに逃げるなんて…。私が眠っている間に…こんなことして…。」
そう言うと、皇憐はやっと私の方を見た。けれどその表情は歪んでいて。きっとその原因は、後悔と罪悪感なんだろう。
「…お、起きているときにして欲しかったわ。」
そう言うと、皇憐は目を見開いた。きっと私の顔は真っ赤だ、顔が熱い。けれど、真っ直ぐに皇憐を見つめた。
皇憐はやっと口を開いたが、動揺を隠し切れていなかった。
「お前…、何言って…。は、え…?」
「わ、私が眠っていないと本音を出せないような根性なしなの?」
そう言うと、皇憐は困惑しているようだった。正直、私だってこんなに強気に出るのは怖い。けれど、今を逃したらきっともうこんな機会はないから…。
私は握っていた皇憐の手を離すと、恥ずかしくて俯いてしまいそうになるのを必死に堪え、皇憐の目を真っ直ぐに見た。
そして、震えそうになる唇を1度グッと噛み締めてから言葉を紡いだ。
「…もう1度、して? 起きている私に、ちゃんと…。」
そう言うと、皇憐は戸惑いながら私の頬に両手を添えて、そっと私に口付けた。唇が離れた後そっと目を開くと、皇憐は片手の甲で口元を抑え、また目を逸らしていた。その顔は真っ赤だった。
私はそっと皇憐の胸に寄り添うと、その胸に手を添えた。とんでもなく早鐘を打つ鼓動が聞こえる。
「皇憐の鼓動、とっても早い。」
「う、うるせぇな、くっつくな!」
「嫌よ。」
笑う私に、ムキになる皇憐。じゃれあっていると不意に、皇憐に抱き締められた。
「好きだ。」
端的に伝えられた言葉に顔を上げると、皇憐は今度は真っ直ぐに私を見ていた。赤い顔。少し不安気な顔。でもすごく、真剣な顔。
私は皇憐の背中に腕を回すと、キツく抱き締めた。なんて、愛おしいんだろう。
「私も、好きよ。」
見つめ合って、もう1度口付けを交わした。離れて、笑い合って。こんな幸せが世の中にあるのか、と思った。
皇憐は私の両脇に手を差し込むと、そのまま持ち上げた。
「きゃっ、皇憐…!」
驚く私を他所に、桜吹雪の中、皇憐はゆっくりとその場で回った。
「桜の精みたいだ。」
「何それ…。」
そんな風に笑い合って、また抱き締め合った。
気が付いたら、好きだったの。でも私には秀明という婚約者がいて。この想いは封じておかなければいけないものだと、ずっとひた隠しにしてきたの。



