龍は千年、桜の花を待ちわびる

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「行ってしまったな。」
「うん…。」


城門から、旅立つ皇憐と結の背中を見送っていた。前回は皇帝と皇后も居たそうだが、今後は遠慮するとのことだった。


「…初めて彼女を見た時、桜琳(おうりん)かと思ってしまった。」
「空も…。」
「あぁも瓜二つだとな…。」


だが結の反応を見るに、前世の記憶はないようだ。皇憐の話によると多少の記憶はあるようだが、希望はかなり薄いらしい。
私の家に泊まった晩、結が寝静まった後の皇憐の荒れ具合を思い出して、思わず苦笑する。

けれど、私の家で流したあの涙。あの涙は…。


「…秀明を疑うつもりはないが、本当にこれで良いものか…。」
「…空も、分からない…。」


1000年もの間、彼の言葉を頼りに生きてきた私たちにとって、今更それを信じないのはあまりに難しすぎる。
けれど頼りにしてきた彼の言葉が成就しなかった場合、それもまた、あまりに残酷すぎる。


「空、信じたい…。秀明も、皇憐も、桜琳も、結も、…奇跡も。」
「…うむ。」


秀明よ。1000年間、待ったぞ。私たちはまだ待てる。そなたが言っていた“奇跡”を、さぁ起こしてみせよ。


空を見上げると、白んだ月が消えようとしていた。いつの間にか、2人の背中はすっかり見えなくなっていた。


「さて…、たまにはどうだ。私の話相手をしてくれぬか?」
「嫌…。空、本当に仕事…。」


空は昔から冷たい。これが平常運転なのだが、皇憐や結、……特に桜琳への接し方を目にしてきた身としては、少し悲しいものがある。


「仕方がない。」


仕事以外で宮殿に滞在することなどないので、何をするか悩んで、ひとまず宮中を散歩することにした。

桜琳との思い出をなぞりながら…。