龍は千年、桜の花を待ちわびる

私は皇憐と水凪と一旦別れると、先日与えられた客室へと向かった。客室へと戻って少しすると、私を担当してくれていた女官がやって来た。


「湯浴みとお召し替えをと伺いましたので、準備させていただきますね。」
「あ、ありがとうございます!」


その後風呂を済ませると、女官に手伝ってもらって着替えを済ませた。


「すっごく綺麗な服…。こんな良い服…。」


着せてもらった服はお姫様かと思うような豪華さで、先日見た皇后の物よりは控え目ではあるものの、引けを取らないレベルだ。


「結様は大切な方ですもの。このくらい当たり前ですわ。」


そう返されて、私は首を傾げた。

よく分からない言い伝えで召喚されて、よく分からない言い伝えで旅をさせられている。そんな私が『大切な方』? …よく分からない。

女官に案内されて宴会場へ行くと、皇憐と水凪はすでに始めていた。


「あぁ、良く似合っている。」


先に私に気が付いて褒めてくれたのは水凪だった。元の世界でもこんな風に直球で褒められることなどあまりないため、ついつい照れてしまう。


「まぁまぁだな。」


皇憐は当たり前のように憎まれ口を叩くと、大口を開けて肉にかぶり付いた。何というか、予想するまでもなくリアクションが分かっていた気がする。


「結…。」


抑揚のない声で呼ばれて振り返ると、空がいた。


「空! ただいま!」
「結…。」


空は私の元に駆け寄ると、しゃがんだ私に飛びついた。可愛いくてたまらない。妹がいたらこんな感じなんだろう。


「おかえり…。怪我は…?」
「ないよ。」
「よかった…。」


可愛いなぁ。


「やぁ、空。」
「水凪…。」
「……。」
「……。」


あ、挨拶終了…? すっごくドライ…。空って水凪のこと嫌いなのかな。いや、これが通常運転…? そういえば私にも最初ドライだったもんな…。大して絆を深めるような何かはなかったような気がするけど…。

それから空と空いた席に着いて食事をいただいた。皇憐に、空に水凪。もう3人集めなくてはならないのに、すでに随分と個性豊かな食卓だ。


「あ…! 皇憐…!」
「ん?」
「荷物って…。」
「俺の物は何も入ってねぇから、そのまま女官に渡したぞ。」
「それならよかった…。」


またしても私は自分の着替えの存在をすっかり忘れていた。洗濯済みなので大した問題はないのだが…。自分の物という認識が薄いようで、どうしても忘れてしまう…。借り物なので無理もない、と自分を慰める。


「そうだ! これ、空にお土産。」
「え…。」
「北の地方の名産。知ってると思うけど…、よかったら。」


そう言って包みを差し出すと、空は白く小さい手でそれを受け取って開いた。中身は北の地方で有名らしい織物でできた人形だ。見つけた瞬間に空が思い浮かんで、ついつい買ってしまった。


「可愛い…。…ありがとう。」


空はそれをギュッと抱き締めると、頬を染めて嬉しそうに微笑んだ。


「空が可愛い…。」


包み込むように空を抱き締めると、そんな私たちを見て皇憐と水凪は嬉しそうに笑いながら酒を飲んでいた。