龍は千年、桜の花を待ちわびる

「…では、まだ封印には余裕があるのだな。」


夕食を摂りながら、皇憐は水凪に封印の状況を説明していた。ちなみに夕飯は水凪が作ってくれた。


「あぁ、あと一月はもつ。この調子でいけば余裕で間に合うはずだ。」
「そうか…。」


私からすれば、思ったより余裕がなかった。体調を崩して長期療養が必要になったりしたら間に合わなくなってしまう。


「あんな状況下で作った封印がよく1000年ももったもんだ。」
「まったくだ…。そなたの妖力のおかげであろうな…。」


本当にすごい話だ。当時の状況は分からないけれど、1000年ももつ封印を考案するなんて、きっととんでもなく優秀な人だったんだろう。
皇憐も封印を1000年ももたせるほどの妖力を本来なら持っているということか。漏れ出た妖気だけでこれだというのに…。


「近頃この辺りでも怨念騒ぎが増えていてな、封印の状態が気になっていたのだ。」
「やっぱりそうか。俺の妖気がこれだけ漏れてんだ。怨念も漏れてるだろうし、漏れた怨念に触発されて自然発生する怨念も増えてるだろうしな…。」
「うむ…。明日、すぐに首都へ向け出立しよう。」
「おう。」


黙々とご飯を食べながら2人の話を聞いていた私は、驚いて少し()せた。


「おい、大丈夫か?」
「首都に戻るの?」
「あぁ。あんなでけぇ楽器持ったままじゃ邪魔だからな。」
「このまま次の鬼の所に行くのかと思った…。」
「そうしてぇのは山々なんだけどな…。しっかり道があるのは首都からだけで、各都市間の行き来は険しい山越えやらが必要になる。」
「なるほど…。」


この街に来るにもずっと登り坂だったのに、それよりも険しいなんて…、私には無理だ…。


「よし、食い終わったらちゃっちゃと寝る支度して明日に備えるか!」


早々にご飯を食べ終えた皇憐は自分の食器を台所へと運び始めていた。慌てて残りのご飯を食べようとすると、水凪に静止された。


「ゆっくりでよい。」
「…うん。」


水凪は優しいなぁ。今のところ、空が末っ子で皇憐が次男、水凪が長男って感じがする。私は一人っ子だから、兄弟が沢山できたようでなんだか楽しい。

ニヤニヤしていると、(チート能力で)洗い物をしている皇憐に「ニヤついてないで早く食え」と言われてしまった。