龍は千年、桜の花を待ちわびる

宮殿を出てから3日目の夜、私たちはようやく目的地の街に辿り着いた。


「大きな街…。」
「東西南北各地にあるでかい街の1つだ。今日は宿に泊まるか。」
「分かった。」


やったー!という喜びがわいてこないのは、皇憐との旅が快適すぎたからに間違いない。
とはいえ道中2日目の昼頃から雪が降り始め、これ以上北に行くのは大変そうだと思っていたところだったため、街に到着して正直安心した。


「ここに鬼の1人がいるの?」
「あぁ、水凪(みなぎ)っつー名前の鬼がいる。」
「絶対水の力じゃん。」
「分かり易いよな。」


その皇憐の笑顔を見て名付け親は誰なのか、名付けられた本人は不服じゃなかったのかが少し心配になった。


「それにしてもよく迷子にならなかったね。」


道は単純だったけれど、別れ道はもちろんあったし、徒歩3日かかる距離なのに皇憐は1度も地図を確認したりしなかった。
あまりに自信満々なので、私は何も言わずについて来たのだが…、それも今更ながらどうなんだか…。


「アイツらが身に付けてる水晶には俺の鱗が入ってるからな、離れててもどこに居るかは大体分かる。」
「へぇ〜。」


つくづく便利な鱗だなぁ。

私たちは水凪に会うのは明日にして、早速宿を探した。皇憐(いわ)く普通の価格帯の宿がすぐに見つかったため、そこに決めた。


「アンタら夫婦だろ? 部屋は1部屋でいいかい?」
「ち、違います!」


噛み付くように反論すると、女将さんはキョトンとした顔をした。やっぱり、男女の旅人だとそういう風に見えてしまうものなんだろうか。


「違うんだが、1部屋で大丈夫だ。な?」
「…うん。」


笑って言う皇憐に、女将さんは首を傾げた。ここまでの道中を考えれば、皇憐と同室だからといって今更何も心配なことはない。


「そこの食堂で夕食も()れるからね、ごゆっくり。」


女将さんが指す方を見ると、美味しそうに料理を頬張る人々が見えた。とその途端に、腹の虫が盛大な音を立てて鳴った。


「……聞こえた?」
「いや? さっさと荷物置いてきて飯食うか。」


少し笑いながら言う辺り、私のお腹の訴えはしっかりと聞こえていたようだ。

食堂で席に着くと、料理を注文した。


「そういやお前、少し痩せたんじゃねぇか?」
「え、本当?」


そう言われて、二の腕やお腹を服の上から確認してみる。


「確かに、なんかシュッとしたかも。」
「まぁ毎日あれだけ歩いてればそうだよな。もっと食わせた方がいいか…?」
「いや、毎食お腹一杯いただいてるので大丈夫です…。元の世界じゃ全然歩かないからなぁ。」


部活をやっているわけじゃないし、通学も電車だ。父親が電車通勤のおかげで比較的駅近に住んでいるし、大人に比べて体育がある分マシ程度の運動量な気がする。