龍は千年、桜の花を待ちわびる

翌朝目を覚ますと、鎌倉の入口はすでに復活していた。皇憐がもう外に居るんだろう。鎌倉から外に出ると、いい香りがした。


「おう、よく寝れたか。」
「おはよう…爆睡でした…。」
「そりゃよかった。」


そう笑った皇憐は何やらせっせと作業をしていた。手元を覗き込むと、おにぎりを大量生産していた。


「ほれ、朝飯。」
「い、いただきます…。」


握りたてホヤホヤを手渡され、その温かさにまたホッとした。おにぎりを頬張ると、その美味しさにまたしても感動する。


「美味しい…。」
「ただの山菜と塩の握り飯だけどな。」


どうやら皇憐は昼食分と夕食分も作っているようだった。確かにこの気温なら傷むことはないだろう。


「私もやる。」
「お、できるか?」
「任せなさい。」


そうして朝から2人でおにぎりを大量生産して、そのまま朝食を済ませた。

準備を整えると、皇憐は昨晩の風呂鎌倉同様、寝床鎌倉も更地に戻した。私たちは道に戻ると、旅を再開した。


「それにしても、皇憐って力抜きにしても何でもできるんだね。」
「まぁ永く生きてっからな。」
「何年生きてるの?」
「さぁ…。途中から数えるの止めちまったからなぁ。」


きっと数千年単位で生きているんだろうけど、そんなにも永い間生きるってどうなんだろう。


「今は仲間の龍とかいないの?」
「昔はいたけどな。戦争のきっかけになるようになってからは、皆ひっそり暮らしてんじゃねぇか?」
「そっか…。皇憐は結構普通に暮らしてた?」
「多分な。俺は始皇帝と仲良かったからな、この国ができてからは友好の証として宮殿に住んでた。」
「そうなんだ…。」
「宮殿の外にはほとんど出なかったな。ガキどもの遊び相手ばっかりさせられて…。」


と懐かしそうに笑った。その笑顔を見た瞬間、それは皇憐にとってとても幸福な記憶なのだとすぐに分かってしまった。
こんな皇憐を封印の人柱にするなんて。…ダメだ、話題を変えよう。私の方が辛くなってしまう。


「そういえば、鬼って皆で何人いるの?」
「5…いや、6か。」
「そんな少ないんだ。」
「『突然変異』だからな。」
「突然変異?」


これまた『皇憐-koren-』では言及されていない事柄だ。鬼が突然変異とは、どういうことなんだろう。私たちの世界でいう『妖の(たぐい)の鬼』とはまた別物のようだ。


「あぁ。昨日怨念の話をしただろ? 母親の胎内に居る間に、怨念の影響を受けた奴らだ。その中でも運良く怨念に適応したのが『鬼』だ。」
「え…。」


私はふと空のことを思い出してみた。確かに、言われてみれば昨日の熊と同じような紋が服から見えていたような…。


「でも本当に運が良かったのかは謎だけどな。俺らが見つけるまでは全員漏れなく、迫害や虐待に()ってたからな。」
「そんな…。」
「無理もねぇ話だ。鬼は一定まで成長するが、その後は不老不死だ。空もあの見た目で鬼の中じゃ最古参だしな。」
「えっ…。」


空…いくつなんだろう…。


「まぁそれも昔の話。俺の封印後は各地に散らばって、自然発生する怨念の対処を任されてる。今じゃ地域の守り神みたいに(まつ)り上げられてるらしいぞ。」
「そうなんだ…。よかった…。」
「まぁ俺の(うろこ)を混ぜて作った『水晶』を持たせてるから当然だな。」


皇憐は得意げに笑った。


「水晶?」
「空も頭につけてたろ、水晶。」


そう言われて再度空を思い出す。空は顔周りの髪をそれぞれ顔の横でまとめていた。その際に使用していたあの“玉”のことだろうか。


「あの、顔の横の?」


私は両頬の辺りで拳を作って見せた。


「そう、それ。アイツの場合はあれがあると風の力が使える。」
「へぇ〜!」
「他の鬼も同じように水晶を身に付けてて、それを持ってると俺の能力を何か1つ使えるようになるってわけだ。」
「え、私もそれ欲しい!」
「ダメに決まってんだろ、俺が禿げになる。」
「そこ?」


……でも待って?


「ということはさ、鬼ってその水晶がなければ不老不死とあの紋以外は普通の人間と変わらないってこと…?」
「……そうだ。」
「…そう…。」


よかった、皇憐がいてくれて。先程の言い方からして、皇憐が鬼たちを保護していたんだろう。
同胞がいると分かった彼らは、救い出してくれる存在がいると知った彼らは、どれだけ救われただろう。

この世界に来てから、自分がどれだけ幸福かを痛感するばかりだ。