龍は千年、桜の花を待ちわびる

翌朝集合場所に行くと、秀明は「うわぉ」と大袈裟な驚嘆を漏らした。


「予想はしてたけど、これは…なかなかの腫れっぷりだね。」
「これでもマシになったの。」


私の目は腫れてしまっていた。皇憐が温めたり冷やしたりしてくれたので、かなり落ち着いたが…、腫れているのは一目瞭然だった。


「じゃあまた結が泣く前に、写真撮ろっか。」
「うん……って、え? 写真?」
「そう。じゃ〜ん。」


そう言って、秀明はチェキを取り出した。


「今売ってる物の中で最高画質の物でーす。」
「そんな物こっちに持ち込んでっ…!」
「写真くらい、いいと思わない?」


私は秀明が良いと言うなら良いのか?と完全に困惑し、そして考えることを放棄した。


そして秀明、私、皇憐、皆の8人で写真を撮ってもらった。

撮ることを頼まれた皇帝は非常に困惑しながらも、出てきたチェキを見て感心していた。


「このような物がそちらの世界にはあるのですね…!」
「もっと沢山あるよ。この国もいつか、そういった発展をするかもしれない。でも、古き良きを保つのも良いよね。」


そんな風に笑いながら秀明は皇帝からチェキ本体を回収すると、皆に1枚ずつチェキを渡した。


「何だいこれ! アタシが写ってるじゃないか。」
「すげぇ! これずっと消えないのか!?」
「宝物…増えた…。」
「こうして見返せるのもいいな…。」
「これがあればいつでも秀明と結、皇憐の顔が見れるのだな!」


皆口々に喜んでいた。皇憐は、チェキを見てフワリと優しく笑っていた。


「さてと! 術の準備をしてる間に…、結。皆とのお別れ、済ませなよ。僕は昨日の夜、済ませたから。」
「うん…。」


私は皆に向き直ると、順番に皆の手を取って言葉を紡いだ。その時、不意に内側から込み上げてくるものがあった。


「空。あなたの名は、自由に生きて欲しいという願いを込めて付けたの、覚えてる?」
「うん…。」
「これからやっと、本当の自由が始まるわ。皇太子の婚約者は思うような自由はないかもしれない。けれど、あなたが選んだなりに…、自由に生きてね。」
「うん…。」


空は涙を流しながら、私に抱きついて来た。私もそれに応えると、涙を零した。


「水凪。あなたの名は、当時水のようにたおやかで、凪のように静かな印象から付けたわ。けれど、いつまでも凪のように静かな水はない。もうすでに、あの頃とは違う印象ね。」


そう笑うと、水凪は苦笑した。


「けれど、それは良いことよ。感情が表に出てきてるってことだもの。…木通と支え合って、幸せに暮らしてね。」
「うむ、もちろんだ。」


涙を流す水凪とも抱き合うと、最後に見つめ合って笑い合った。