龍は千年、桜の花を待ちわびる

その日の晩、私と皇憐は“あの日の晩”のように桜林に来ていた。

美しい満月の夜だった。


「まだ夜は冷えるね。」
「そうだな…。」


私たちは皇憐の特等席だった桜の木の根元に腰掛けると、持ってきた布団に一緒に包まった。


「また…この景色を皇憐と見られるなんて…。」


桜の絨毯、視界を埋め尽くす桜吹雪、見上げれば満開の桜。


「あぁ…思ってもみなかったな…。」


私たちは肩を寄せ合い、ただ静かに桜を見つめていた。


「どうしよう、こうしているだけで堪らなく幸せ。」
「俺もだ…。」


このまま、時が止まれば良いのに。怨念の件が片付いてから、何度そう思ったことだろう。

このまま桜に埋もれて、ここに取り残されたい。そんな風に思ってしまう。


「皇憐、この後の行き先本当に全く決めてないの?」
「あぁ。1000年も経ってちゃとんでもなく変わってるだろうしな…。当てもなく彷徨って、放浪の旅なんてのも良いかもしれねぇな。」
「皇憐1人だったら、どこでも生きていけちゃうもんね。」
「おう!」


自信満々に頷いた皇憐に思わず笑いを溢した。


「ねぇ…、“あの夜”のこと、覚えてる?」
「当たり前だ。忘れられやしねぇよ。」
「あの晩…、私を止めてくれてありがとう。」
「…止めて正解だったろ?」
「うん…。」


そう苦笑した私に、皇憐は満足そうに笑った。自分の選択が間違いじゃなかったことに安心したのだろう。


「今日もあの晩と似た状況だけど…。」
「あぁ。」
「もう、私を皇憐のものにしてなんて言わない。」
「言われてもしねぇよ。お前まだ『学校』って所に通ってんだろ?」
「うん。」
「それに…、子どもの成長を見守れねぇのは、やっぱり嫌だからな。」
「うん…。」


私はそっと皇憐の肩に頭を乗せた。


(本当に、明日…離れるんだ。もう、今度こそ…一生のお別れなんだ。)


そう思うと、涙が零れてしまいそうになる。あの晩だって、そう思いながら過ごした。

そう何度も奇跡は起きてくれない。


「向こうの世界は、人はいっぱい居んのか?」
「うん…。こっちとは比べものにならないくらい、いっぱい居ると思う。」
「そうか…。」


そう言うと、おもむろに皇憐は立ち上がって少し前へ出た。

丁度、満月がよく見える場所だ。