龍は千年、桜の花を待ちわびる

「皇憐様! いかがされました?」


皇帝は突然の皇憐の訪問に驚くと、皇后を呼んで来て机を挟んで向かい合わせに座った。


この場に居て良いんだろうかとソワソワする私を他所に、皇憐は手の平より少し大きいサイズの木箱を机の上に出した。

そしてそれを開けると、手の平にギリギリ納まる程の、大きな透明な水晶玉が入っていた。


「こっ、これは…!?」
「俺の鱗を混ぜた水晶だ。俺には加護の力があるらしい。この水晶を、俺の廟に祀ってくれ。きっと国の加護になるはずだ。」
「皇憐様…。ありがとうございます…!」
「ありがとうございます、このような勿体なき物を…。」


皇帝と皇后は口々に感謝を述べた。

そういえば、とそこで気が付いた。皇憐が今後どうするのか、全く聞けていていなかった。


「いいんだ。俺は…この国を離れようと思う。」


そう静かに言った皇憐に、皇帝と皇后は寂しそうに微笑みながらも頷いた。


「永きに渡り、この国に尽くしてくださった…。歴代皇帝を代表して、感謝申し上げます。」
「私からも、歴代皇后を代表して感謝申し上げます。」


私はただ、黙ってその光景を見ていた。


「して、行き先は…?」
「まだ決めてねぇんだ。とりあえずここには封印前も含めて、長居しすぎちまったからな。秀明と結を見送ったら…、旅立とうと思う。」
「左様ですか…。もし機会がありましたら、ぜひ桜和国にお立ち寄りください。」
「皇族一同を挙げておもてなし致しますわ。それこそ、そのように言い伝えも残しておきます。」
「…そうだな。桜を見に立ち寄るだろうから、頼む。」
「はい。」


そう言って笑顔を浮かべた皇帝・皇后のもとを後にすると、皇憐は回廊のいつもの桜へと移動した。私も、それを見上げる形で回廊に腰掛けた。


「皇憐も、ここを離れるの…?」
「あぁ。もう十分役目は果たした。“お前”が愛した国を守る役割も、アイツら……特に空に託そうと思う。」
「そっか…。」


1000年以上も国に尽くしてくれた皇憐に、これ以上何かを求めるのは過ぎた願いだ。


「この桜も座り納めになるな。」
「そうなの?」
「この桜に俺が居るようになったのは、“お前”の部屋に1番近かったからだ。どこ行くにもここ通るだろ?」
「えっ…。」


確かにそうだけど…。


「そういう理由だったんだ…。」
「本当にお前は鈍いな…。」
「皇憐まで、ひどいなぁ。」


そう笑うと、皇憐も笑った。

そしてその日の夕食の席で、秀明から私たちが明日、元の世界に帰ると告げられた。