龍は千年、桜の花を待ちわびる

「結、居るかー?」


翌朝、私を呼びに来たのは皇憐だった。


「どうしたの? こんな朝早くに…。」


ここ最近なら、皇憐はすでにどこかへ行っている時間だ。

夕食だけは必ず一緒に摂っていたが、私たちの滞在時間がわずかだというにも関わらず、あまり皇憐とは共に時間を過ごせなかった。


「行くぞ!」
「えっ、え?」


困惑する私を他所に、皇憐は龍の姿になると私を背に乗せて空高く舞い上がった。

朝食と着替えを済ませておいてよかったと、ついそんなことを考えているうちに皇憐は上昇を止めた。


「見ろよ、見事だぞ。」
「わぁ…!」


私は感嘆を漏らした。

国中が満開になった桜で、桜色に染まっている。桜琳だった頃に何度も見た光景だというのに、改めて見ると絶景だ。


「これ、やる。」
「え?」


皇憐に手渡された木箱を開けると、そこには桜色の小さな水晶が2つ入っていた。


「皇憐…これ…。」
「俺の鱗を混ぜて作った水晶だ。」


そう言われて、私は涙を零しながら皇憐の背にしがみついた。


「禿げるから嫌だって言ったじゃん…。」
「不老不死なんだから禿げるわけねぇだろ。」
「嘘つきっ…。」


泣きながら笑って、私の顔はグチャグチャに違いない。でも、それ以上に嬉しかった。


「どう加工していいか分からなかったから、ただの水晶の状態だ。髪飾りでも首飾りでも耳飾りでも、向こうの世界で加工してもらえ。」
「うんっ…。ありがとう…。」


一生の宝物だ。


秀明に訊いたところ、元の世界に戻る際に物を持って行けるというので、昔皇憐にもらった簪は持って行こうと思っていた。

持って行く物が、増えてしまった。


「皇憐、これを作るために最近居なかったの…?」
「あぁ。…まぁ、それだけじゃねぇが…。」
「そっか…。ありがとう…!」


私は木箱を大事に抱えた。


「このまま国中一っ飛びするか!」
「うん!」


そうして、皇憐の背に乗って国中を一周した。


今の国民は龍の存在を伝説だと思っている。

そのため姿を見られるわけにはいかなかったので、かなりの高度での飛行となったが、それでも十分だった。


桜琳として、結として、あそこに行っただの、あそこに行った時どうだっただの、思い出を沢山振り返った。

やがて日が暮れる頃、私たちは宮殿へと戻った。


そして皇憐に連れられて、皇帝・皇后に会いに行った。