龍は千年、桜の花を待ちわびる

「桜…一緒に見れて嬉しい…。」


空は私の腕にギュッとしがみつくと、嬉しそうに笑った。

皇憐の定位置であった桜の木の側の回廊に腰掛け、私と空は桜を見上げていた。皇憐は今日もどこかへ行ってしまっている。


「ね! あの時は…一緒に桜を見れるとも思わなかったし…桜琳の記憶が戻るとも思ってなかったから…。」
「空、すっごく幸せ…。」


空は正式に皇太子の婚約者となった。ちなみに、皇太子は12歳くらいだった。外見年齢はともかく、とんでもない姉さん女房だ。


「私も、幸せ。」


これから空も、大人になっていくんだろう。


もう1000年以上も生きているのに、戸惑うことが沢山あるに違いない。けれどきっと、その度に周囲が支えてくれるだろうとこの旅を通して感じられた。

それは空だけじゃない、他の皆も同様だ。


ハラハラと舞い散る桜の花びらを見ていると、『桜琳』として幸せだったことと同時に、皇憐との日々ばかり思い出してしまう。

私は苦笑を漏らした。


(こんなに、愛していたなんて。)


転生の術をかけられる際、我が儘を言っても良いのならと思った。


けれどきっと本当は、皇憐とともに歩めなかった未来への未練があったのだろう。もちろん、無自覚だったといえば嘘になる。自分が思っていた以上に、というのが正しい。

ひた隠しにしていたはずだったのに、秀明には見抜かれていたに違いない。


秀明はいい。

元々そういう話だったのだし、それこそきっと仕方がないと…見て見ぬフリをしていてくれただろう。


(子どもや孫たちにバレていなければいいな、なんて…ズルイよね…。)


「結…?」


ハッと我に返ると、空が首を傾げて私を見ていた。


「何でもないの。」
「…皇憐…?」
「……うん。やっぱり、バレちゃうか。」


そう苦笑すると、空は桜に視線を戻して言った。


「空…、桜琳すごいと思ってた…。」
「え?」
「桜琳…、辛いはずなのに…、皆に気付かれないように…。」
「空…。」
「事情知らない人、皆…絶対気付いてなかった…。」


そう言われて、私は眉間に皺を寄せた。


「空、心読めるようになった?」
「なってない…。けど、長生きだから…。」


そう言われて、私は涙を滲ませながら笑った。