龍は千年、桜の花を待ちわびる

気付けば、あっという間に数週間が過ぎていた。

皇憐は暇なのかと思いきや、足繁くどこかへ通っていた。不思議に思って皇憐に訊ねるも毎回はぐらかされ、秀明に訊ねると「放っておいてあげな」と言われる始末だった。


そしてその数週間のうちに、秀明は皇帝の名を使って国中に怨念騒動についての触れを出した。


1000年以上に渡った怨念との戦いに決着がついたこと。そしてその立役者は鬼たちであること。

そしてその戦いをきっかけに、鬼たちは普通の人間に戻ったため、もう力は使えないということ。
不老不死でもなくなったため、これからは普通の人間として生きていくこと。

加えて、周囲もそのように対応して欲しいこと。ただ感謝等はぜひ伝えて欲しいこと。


そんな触れを受けて、皆もそれぞれ動いていた。


空はいつも通りに過ごし、焔は定期的に自宅に戻っていたが、基本的には宮殿に滞在していた。
水凪と木通も新居の準備を進めつつ、やはり基本的には宮殿に滞在していた。馬で駆ければ日帰りも可能なことをいいことに、少し無茶をしているようだ。
金言は西の街の家を引き上げ、荷物をすべて宮殿の自分の部屋に移した。どうやら旅の拠点はやはり宮殿にするようだ。

皆、少しでも私たちと一緒に居る時間を増やそうとしてくれているのが伝わってきた。


そんな皆は、口を揃えて苦笑しながら言った。「どこに行っても出会う人々に感謝される」と。


紋も力も消えた皆だが、髪や目の色は変わらなかった。鬼であったことが一目瞭然である以上、仕方がない。

けれど皆、元々守り神として祀り上げられてきたのだ。何を今更と問うと、これまた口を揃えて「自分たちだけの功績ではない」と言う。


皇憐や秀明、私の存在は今回の触れの中からは抹消されている。

もちろん秀明が宮殿に残す記録の中や、実際に触れ合った人々の記憶には残るが、それだけだ。



やがて気付けば、待ち焦がれた桜が花を咲かせ始めていた。



「さてと、僕のやることも大方終わったかなぁ。」
「お疲れ様、秀明。」
「結も手伝い、ありがとう。」


術式の記録、今回の事の顛末(てんまつ)の記録、霊力を持つ人間への怨念の対処法の伝授。

パソコンなしのアナログではかなり大変な作業だった。私も手伝ったとはいえ、秀明に比べれば大したことはない。


そして秀明はあの『言い伝えを記した本』を見つけると、恥ずかしさからなのか、クスクスと笑っていた。


「悪いんだけどこれ、もう必要ないから…、処分するか、僕らの廟に納めておいてもらってもいい?」
「では、廟に納めさせていただきますね。」
「ありがとう。」


そんな風に皇后にお願いすると、私たちは東屋に移動した。


「こっちの服を着てこうしていると、タイムスリップした気分になるね。」


私を見てそう笑う秀明は、やりたかったことをやり終えた達成感からか、晴々とした表情をしていた。


「そうだね…。」
「…桜、今週中には満開になりそうだね。」
「……うん…。」


そして秀明の予想通り、数日後、桜は満開になった。