龍は千年、桜の花を待ちわびる

そう問われて、私はグッと歯を食いしばった。そして、ゆっくりと首を横に振った。


「比べられないよ…。だって、皇憐は…、私の……『桜琳』の一部だもん…。」


もう、切り離してなんて考えられない。

けれど例え体が離れていたとしても、心は一生共にあれる。そう、桜琳だったときに分かった。


「っ…、悪い。」


そう言うと、皇憐は私を抱き寄せた。


「卑怯な訊き方しちまったな…。」
「ううん…。」


私は皇憐の背中に腕を回すと、その胸に頬擦りした。


「一緒に居る道を…選べなくてごめんね…。」


そうポツリと言うと、皇憐は私を抱く腕に力を込めた。


「なぁ、覚えてるか? 旅を始めたばかりの頃…。結に『お前は幸福に育ったんだな、よかった』って言ったこと…。」
「うん…。」


初めて怨念に取り憑かれた熊に遭遇した時だ。初めて死を、目の当たりにした…。


「その結果が、結が出した答えなんだろ? なら俺は…安心して結を向こうの世界へ送り出せる。」
「皇憐…。」
「最初から…、また“別れ”がくることは分かってたんだ。今更…未練がましいな…。」


私の頭に皇憐が頬を寄せると、私は自然と皇憐の首筋に顔を埋める形になった。鼻腔を掠める皇憐の匂いに、我慢していた涙が次から次へと溢れて止まらなかった。

私たちはそれ以上言葉を交わすことなく、しばらくそのまま抱き締め合っていた。


誰が悪いわけでもない。誰が悪いわけでもないからこそ、この思いをどうすればいいのか分からない。

涙を流しても、この思いが少しも薄れることはなかった。

けれど、互いの温もりをこうして感じられる。それだけでもう、今は十分だ。


しばらくして皇憐は私の体を少し離すと、そっと涙を拭った。


「桜…。」


ポツリと呟いたかと思うと、皇憐は優しく微笑んで言葉を続けた。


「一緒に見られるな。」
「…うん。」
「ここでも。」
「うん。」
「蓮池でも。」
「うん。」
「…桜林でも。」
「うん。」
「国中…見て回れるな。」
「…うん。…沢山見よう、桜。」


私はまた涙を零しながら、けれど笑って返した。


(そしてまた一緒に、桜に埋もれよう。)


互いに言葉では伝えなかったが、きっと願いは同じだと思うから。


私たちは再び抱き締め合うと、笑い合って、そして“初めて”のキスを交わした。