龍は千年、桜の花を待ちわびる

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翌朝……いや、数時間後、というべきだろうか。皆が目覚めた後、秀明から私たちの長期滞在が伝えられた。


「え! 一緒に居られるのか!?」


そう飛びついてきた金言に笑顔で頷くと、金言は嬉しそうに顔を綻ばせた。

かと思うと、鬼の皆が一気に押し寄せて来て、おしくらまんじゅう状態になった。


「やだ皆、苦しいよ。」


そう笑いながらも、想像以上の歓迎ぶりに私は少し泣きそうになっていた。


「結。」


不意に声を掛けられて、私はそっと目を閉じた。


(…ちゃんと、話さなきゃ。)


皆は私からそっと離れた。私は皇憐を振り返ると、「少し歩こっか」と言った。


私たちは宴会を行なっていた部屋を出ると、無言のまま歩き続けた。私が先を行き、皇憐が後ろをついて来る。あまり、なかった光景だ。

少し歩こうとは言ったものの、目的地は決まっていた。


私は回廊の角で足を止めると、その定位置に腰を下ろした。


「たまには隣、どう?」


皇憐を振り返って手で隣の床を撫でた。ここで並んで座ったことはあっただろうか。

外は雪がしんしんと降っていて、皇憐の定位置の桜の木にはとても座れそうにない。


皇憐は静かに隣に腰掛けると、定位置の桜の木を見上げた。


「…下からだと、こんな風に見えんだな。」
「…1000年経って木が成長したから、少し見え方は違うかもね…。」


けれどこの桜和国の桜は、春の間咲いては散ってを繰り返す分、私が知る木々よりも成長が遅いように思う。昔とあまり見た目が変わっていない。


そう言葉を交わしたきり、私たちはただ桜の木を見上げながら、沈黙を守った。

白い吐息が、漏れては消えていった。


「…帰るのか。」


先に言葉を発したのは、皇憐だった。


「……うん。」


本当は私から切り出さなければいけないのに、ずるいことをしてしまった。

私は自分の手に視線を移すと、そっと握り締めた。


「本当は、この世界で…皇憐と生きて行きたい。」
「じゃあ…!」
「でもね…。」


視線が絡んだ瞬間、互いの顔に浮かんでいた、いろいろな感情が消えた。


「この世界の私……『桜琳』はもう、死んだから。今は、『結』を生きたいの。向こうの世界にも、大切なものが…沢山できたから…。」
「……それは、“俺”よりも…大切なものなのか…?」