一目惚れだった。
同年代の少女を目にしたのも初めてだったが、何より、可愛くて愛らしくて。雷にでも打たれたかのようだった。
「ふふ。可愛いなぁ、僕。」
そんな風に当時を思い出しながらここを歩いていると、より一層鮮明に当時を思い出せる。
当時はよく皇憐に嫉妬したものだ。僕が勉強に励んでいる間に、2人でよく遊んでいるんだもの。嫉妬するのも無理もない。
2人が両想いだと気付いてからは、そんな嫉妬も影を潜めていった。
「『桜恋歌』なんて名前、付けなきゃよかったなぁ。」
桜琳がよく同じ音色を箏で奏でていたので、曲名を訊ねたのがきっかけだった。
曲名はないと言う彼女に、曲名を提案したのは僕だった。「『桜“を”恋しく想う』で『桜恋歌』なんてどう?」と提案したのだ。
まだ、2人が想いを確かめ合う前だった。桜琳が叶わない皇憐への想いを曲に込めていることはすぐに分かったから…。
桜琳はその曲名を気に入って、よくその曲を奏でていた。
「正しくは『桜“が”恋しく想う』で『桜恋歌』なんだけど…、やっぱり気付いてないんだろうなぁ。」
皇憐もさすがに気付いているだろう。彼女はもう…、曲名の由来なんて覚えていないかもしれない。
僕は桜林に辿り着くと、雪の上に仰向けに倒れ込んだ。パウダースノーがフワリと舞って、光を受けてキラキラと光った。
(後先考えず、このままここで眠ってしまいたい。)
そっと目を閉じると、肺一杯に空気を吸い込んだ。冷たい。このままだと凍死するかもしれない。
でも、少し疲れたんだ。アドレナリンが出ているし、死にはしないんじゃないかなんて考えてみる。
少しだけ、頭を空っぽにしたい。彼女への気持ちはここに置いて行きたい。そして、雪と一緒に溶けてなくなってしまえばいい。
皇憐と結は僕の遺した言い伝え通りに動いてくれた。そして思惑通り、また想いを通わせた。これで僕の皇憐への罪滅ぼしは終わった。
もう皇族や重役以外、誰も皇憐のことも封印のことも覚えていない。もう、彼は自由だ。
(転生後の役目も…やりたかったこともほとんど終わった。)
よくやったと自分を褒めてやる。今回の出来事はすべて、公になることはない。でも皇憐にも桜琳にも、僕の思惑はもうバレているだろう。
例えどれだけ、彼女が鈍くても。
不意に、雪を踏み締める音がした。
見回りの兵だろうか。不審者として捕まらないといいななんて呑気に考えていると、明るい声で話し掛けられた。
「秀明、見つけた!」
薄っすら目を開けると、そこには結が居た。
「結…。」
「戻って来るの遅いから、心配で探しに来ちゃった! 薄着なんだから、風邪引かないうちに戻ろう?」
そう言って僕の手を掴んで、無理矢理起き上がらせた。
そういえば、そうだった。いつも僕の企みはバレないのに、なぜかこうして僕の居場所を見つけ出すのは、決まって桜琳だった。
「結。」
「ん? 何?」
桜琳が息を引き取ったあの日は、春の満月の晩だった。
桜琳の願いで、皆で桜琳を桜林へ連れて行き、桜の花びらの絨毯の上に寝かせた。舞い散る花びらに、咲き誇る桜。視界が全て桜に埋もれてしまうような、そんな晩だった。
皆で嫌だと泣きながら、桜琳の手を握った。そこには子や孫も居た。
桜琳は幸せそうに笑った後、恋する少女のような顔をしたかと思うと、空へ向かって手を伸ばしたのだ。
その瞬間に悟った。
僕は永遠に皇憐には勝てないのだ、と。
「……愛してたよ。」
「……。」
結は一瞬キョトンとした後、『桜琳』の頃のようにフワリと笑った。
「私も、愛してたよ。」
同年代の少女を目にしたのも初めてだったが、何より、可愛くて愛らしくて。雷にでも打たれたかのようだった。
「ふふ。可愛いなぁ、僕。」
そんな風に当時を思い出しながらここを歩いていると、より一層鮮明に当時を思い出せる。
当時はよく皇憐に嫉妬したものだ。僕が勉強に励んでいる間に、2人でよく遊んでいるんだもの。嫉妬するのも無理もない。
2人が両想いだと気付いてからは、そんな嫉妬も影を潜めていった。
「『桜恋歌』なんて名前、付けなきゃよかったなぁ。」
桜琳がよく同じ音色を箏で奏でていたので、曲名を訊ねたのがきっかけだった。
曲名はないと言う彼女に、曲名を提案したのは僕だった。「『桜“を”恋しく想う』で『桜恋歌』なんてどう?」と提案したのだ。
まだ、2人が想いを確かめ合う前だった。桜琳が叶わない皇憐への想いを曲に込めていることはすぐに分かったから…。
桜琳はその曲名を気に入って、よくその曲を奏でていた。
「正しくは『桜“が”恋しく想う』で『桜恋歌』なんだけど…、やっぱり気付いてないんだろうなぁ。」
皇憐もさすがに気付いているだろう。彼女はもう…、曲名の由来なんて覚えていないかもしれない。
僕は桜林に辿り着くと、雪の上に仰向けに倒れ込んだ。パウダースノーがフワリと舞って、光を受けてキラキラと光った。
(後先考えず、このままここで眠ってしまいたい。)
そっと目を閉じると、肺一杯に空気を吸い込んだ。冷たい。このままだと凍死するかもしれない。
でも、少し疲れたんだ。アドレナリンが出ているし、死にはしないんじゃないかなんて考えてみる。
少しだけ、頭を空っぽにしたい。彼女への気持ちはここに置いて行きたい。そして、雪と一緒に溶けてなくなってしまえばいい。
皇憐と結は僕の遺した言い伝え通りに動いてくれた。そして思惑通り、また想いを通わせた。これで僕の皇憐への罪滅ぼしは終わった。
もう皇族や重役以外、誰も皇憐のことも封印のことも覚えていない。もう、彼は自由だ。
(転生後の役目も…やりたかったこともほとんど終わった。)
よくやったと自分を褒めてやる。今回の出来事はすべて、公になることはない。でも皇憐にも桜琳にも、僕の思惑はもうバレているだろう。
例えどれだけ、彼女が鈍くても。
不意に、雪を踏み締める音がした。
見回りの兵だろうか。不審者として捕まらないといいななんて呑気に考えていると、明るい声で話し掛けられた。
「秀明、見つけた!」
薄っすら目を開けると、そこには結が居た。
「結…。」
「戻って来るの遅いから、心配で探しに来ちゃった! 薄着なんだから、風邪引かないうちに戻ろう?」
そう言って僕の手を掴んで、無理矢理起き上がらせた。
そういえば、そうだった。いつも僕の企みはバレないのに、なぜかこうして僕の居場所を見つけ出すのは、決まって桜琳だった。
「結。」
「ん? 何?」
桜琳が息を引き取ったあの日は、春の満月の晩だった。
桜琳の願いで、皆で桜琳を桜林へ連れて行き、桜の花びらの絨毯の上に寝かせた。舞い散る花びらに、咲き誇る桜。視界が全て桜に埋もれてしまうような、そんな晩だった。
皆で嫌だと泣きながら、桜琳の手を握った。そこには子や孫も居た。
桜琳は幸せそうに笑った後、恋する少女のような顔をしたかと思うと、空へ向かって手を伸ばしたのだ。
その瞬間に悟った。
僕は永遠に皇憐には勝てないのだ、と。
「……愛してたよ。」
「……。」
結は一瞬キョトンとした後、『桜琳』の頃のようにフワリと笑った。
「私も、愛してたよ。」



