龍は千年、桜の花を待ちわびる

「不思議に思ってたことが解決して、スッキリしちゃった。」
「作者としてはネタバレしちゃったから、あーあって感じ。」
「…でも、この戦いが直接漫画になるわけじゃないでしょ?」
「うん。」
「今後の展開にも期待してるよ、秀明先生。」
「うん、ありがとう。」


きっと私は、今後も『皇憐-koren-』の愛読者でい続ける。秀明が描く、この国の違う未来が楽しみだから。


「そういえば陰陽術…どうしたの?」
「安倍晴明を片っ端から調べ上げたんだよ。『秀明』のコネを使って、直系の子孫にも会って、資料も片っ端から見せてもらって…。」


…売れっ子漫画家のコネはすごい、ということだけは分かった。


「それを組み込んでやっと完成したんだ、『成仏の術式』。遅くなってごめんね。」
「ううん。間に合ったから…。」
「…ありがとう。」


そう言うと、秀明はおもむろに立ち上がって伸びをした。


「寒いけど、気持ちが良いから少し散歩して来ようかな。」
「うん。」
「建物の位置とか、変わってないよね?」
「何も変わってないよ。」
「ありがとう。じゃあ、行ってくるね。」
「うん、いってらっしゃい。」


そうして、雪を踏み締めて歩いて行く秀明の後ろ姿を見送った。

いつの間にか、朝焼けは霞がかった冬の朝の空へと表情を変えていた。


息を吐くも、その吐息はあまり白くならなくなってしまった。体がすっかり冷え切ってしまっている。

そろそろ中へ戻ろうと立ち上がろうとした瞬間、後ろから温もりに包まれた。


鼻腔を掠めた匂いで、すぐに誰だか分かってしまった。


「皇憐っ…。」


いつから居たんだろう。どこから…話を聞いていたんだろう…。

焦る私を他所に、皇憐はキツく私を抱き締めた。


「冷え切ってんじゃねぇか。」
「秀明と少し話してたから…。」
「そうか。」


(話は…聞かれてなかった…のかな…?)


私と秀明の会話内容に触れてこないところを見るに、特に序盤の…元の世界に帰るという話は、聞かれていなかったのだろうか。

皇憐が触れてこないなら、わざわざ私から触れる必要はない。どうせ後で秀明から、あと1ヶ月ほどこちらに滞在するという話がある。


その時に…しっかり話そう。


「…中、戻るか。っつっても皆爆睡してっけど。」
「ううん…。」


私は私を抱き締める皇憐の腕にそっと触れた。私の体が冷え切っている分、皇憐の体温をしっかりと感じられる。


「今はまだこうして、皇憐に包まれていたい。」


そう言うと、皇憐は私をしっかりと抱き締め直した。