長い回廊を歩いていると、日差しの心地良さに青空を見上げた。

ふと、強く風が吹いた。
視界が桜の花びらで埋め尽くされる。


「きゃっ。」


驚いて悲鳴を上げると、笑い声がした気がした。


--『桜の精みたいだ。』


そう言われた気がして笑いながら振り返るも、そこに“彼”はいなかった。

そうだった。
彼にはもう、会えないんだった。


丁度私の部屋へと続くこの回廊脇の桜の木の上が、彼の特等席だった。


「大丈夫ですか?」
「……えぇ。」


私は風で乱れた髪を手櫛で整えつつ笑みをこぼした。一緒に零れてしまいそうになる涙を堪えて。


「さぁ、行きましょう。皇帝陛下が待っているわ。」


侍女を促し、止めていた足を動かした。



あなたが守ってくれたこの国で、幸せに生きてみせる。


もう、2度と会えない人。

私の、愛する人。